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AFURI 恵比寿

恵比寿にあるこのラーメン屋には思い出がいくつかあって、そしてこれからも通いながらその思い出を重ねていくのだろうと思う。

数年前、私は目黒に拠点を置くベンチャー企業で働いていた。

ベンチャーというのは実に特異な業態だと、大手企業から移ってきた私にとっては非常に大きなカルチャーショックを感じたのだ。マニュアルもなく、考え方もバックグラウンドもまるで違う人達が寄り集まって、成功するか失敗するかの瀬戸際を全力疾走するような感覚があだ。そしてそれは少しずつ姿かたちを変えて、光の射す方へと向かっていった。

一時期、私にはその光の射す方向が全く見えなくなってしまった時期があった。そして、もがき苦しみ時に泣いた。

そんな時に出会ったのがこの柚子塩ラーメンだ。

飲み会の帰りだったか、駅に向かう途中で通りがかったこの店に私は一人で吸い込まれてしまった。それから食券機でチケットを買い、それを店員に渡し、淡麗を選び、席につく。
ラーメンが到着するまでの間に私は色々なことを考えていたが、目の前にラーメンが置かれるととりあえず全て忘れてこの一杯に集中すべきだと確信した。

ちょっと高い、ちょっと遠い「阿夫利」は私のこころをそのお出汁で満たしてくれた。スープまですべて飲み干すころになれば、もはやベンチャーのしがらみなどどうでもいいと思うようになっていた。
阿夫利のすべてが「ちょっと、私とズレている。」それが肝心なことだったのかもしれない。

「阿夫利の柚子塩ラーメン」に出会ってからも、仕事に苦しみ育児に泣き家事に翻弄される日々は続くのだが、不思議と自分の限界が近くなる頃にはここでラーメンをすするのである。

いまはもう目黒を離れてしまったが、それでもたまに仕事で近くを通りかかればあのガラス戸を押し開き、食券を買い、店員に渡し、端麗を選び、席についてラーメンが目の前に運ばれるのを心待ちにしている。

実に不思議である。

AFURI 恵比寿
03-5795-0750
東京都渋谷区恵比寿1-1-7 117ビル 1F

#コラム #グルメ #ラーメン  


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