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至高の現代文/解法探究29〈内容説明群③〉

【至高の現代文/記述解法の探究・肉】

ここでは、本書に収録した全200題(記述小問)の解法を、汎用性のある形に分類して提示する。あわせて、各解法ごとに本書収録の参照問題を挙げる。略称は以下の通り。東→東京大学、京→京都大学、東北→東北大学、九→九州大学、北→北海道大学、阪→大阪大学、名→名古屋大学、橋→一橋大学、神→神戸大学、筑→筑波大学、広→広島大学。例えば「19東一.一」は、2019年東京大学の大問一の小問一をあらわす。


7.構文変換(名詞の動詞化)

傍線部を言い換えるにあたり、そのまま要素に分けて換言しても文が硬直し、十分な説明とならない場合がある。特に、傍線が(動詞的)名詞で締められている場合がそれにあたる。この場合、まずは傍線を一文に戻して傍線部の位置づけを把握し、動きのある表現(動詞的表現)に構文を変換するとよい。これにより、あとの解答作業がスムーズに進むことになる。言葉を適切に置き換える柔軟な思考力と語彙のストックが必要だが、マスターすれば本番で差のつく答案を示すことができる。

→19九一.二「当為そのものの在所」、19九二.一「等質空間の捏造」、19筑一.三「バーチャルな訪問者」、15東一.三「足跡」、14東一.三「錯覚」、16京二.三「労働のイメイジ」

(例題) 「その認められた自分らしさは、すでに生成する自分ではなく、生成する自分の残した足跡でしかない」(傍線部ウ)とはどういうことか、説明せよ。(60字程度)〈15東大一.三〉

内容説明問題なので、傍線部を「その認められた自分らしさは(A)/すでに生成する自分ではなく(B)/生成する自分の残した足跡でしかない(C)」に分けて言い換える。Aについては指示語の具体化で容易、「他人のイメージに合致することで認められた自分らしさ」ぐらいにしておく。
それで後はBとCだが、これは何を言い換えるのか一見分からない。「生成する自分」については、すでに問一、二で考察したところなので、ここではポイントにならない。恐らくは「足跡」がポイントになるのだろうが、こういう誰もが意味を知っている名詞を、他の名詞に置き換えたところでトートロジーにしかならない。困った…
ここで「足跡」をイメージし、他の言葉との関係で「動きのある表現」に直してみる。「あしあと」を残したのは「生成する自分」である。「生成する自分」は、Bより、もう「ここ」にはなく、「あしあと」を残し「どこか」に向かった。どこに?⑦段落に書いてある。「虚への志向性」つまり他者により規定された「自分らしさ」を否定し、自由な方へ。
この理解で「足跡」を表現すると、「…自分らしさが認められた時にはすでに、生成する自分は…に向かっている」という形になる。この問題には特別に「あしあと問題」と命名しよう。

<GV解答例>
他人の抱く印象に合致することで自分らしさが承認された時にはすでに、生成する自分はそれから自由な可能性の方へ向かっているということ。(65字)

<参考 S台解答例>
他人が認めた自分らしさは、不断に変化し続ける現在の自分にとって、その過程のうちの固定された一断面でしかないということ。(59字)

<参考 K塾解答例>
ある時点で他者が認めた自分らしさは、その認定とともに変容していく自分の動きを含んでおらず、生成する自己の一断面でしかないということ。(66字)


8.表現への配慮

文末表現や副詞的表現に配慮して、解答構文を決定したり、見えにくい解答要素を加えたりする場合がある。「Aとなる」(→19東一.四)ならば、Aという帰結に対する原因・背景を加える必要がある。また、「し損ない」(→19京一.四)ならば、「志向しながらの頓挫」であり、その志向性と頓挫の理由を答える必要が出てくるのである。以下に、参照題とともに配慮すべき表現を挙げておく。

→19九二.五「そうではない(判断)」、19神一.二「さらに」、19広二.三「?(確認)」、14東一.四「も実は」、05東一.二と02東一.三「さえ」、15東四.二「してしまった(失態)」、09東四.一「残っている」、18九一.四「極力限定」

(例題) 「写真のもつ記録性を極力限定し、なるべく踏みつぶしていくかという態度」(傍線部D)とあるが、具体的にはどういう態度か、説明せよ。(四行:一行25字程度)〈18九大一.四〉

内容説明問題。まず「記録性を極力限定」とあるので、逆に言うと写真において記録性は宿命的なのである。それを踏まえて、A「写真の(宿命的)記録性」、B「Aを限定する態度」、C「Aを踏みつぶす態度」。Aについては、③段落冒頭文を踏まえ「写真の科学性(→機械の正確さ)/対象を正確に(客観的に)記録する性格を免れない」とする。Bについても、③段落に戻って「(Aだが、)撮る者の主観と意図を介在させる」とする。これから繋げてCの比喩表現は、「(Bすることで)写真の記録性を否認しようとする態度」とする。

<GV解答例>
写真は機械の正確さによって写し取られる像である以上、対象を客観的に記録する性格は免れないが、そこに撮る者の主観と意図を介在させようと努めることで、その記録としての性格を可能な限り否認しようとする態度。(100)

<参考 S台解答例>
写真の撮影者が、実物を精密に記録描写することのみを意図するのではなく、そうした記録描写の機能の利用を可能な限り抑制し、表現の可能性においてはできるだけ人間の主体的な統率のもとに実物を再現再生しようとするという態度。(107)


9.カギカッコ外し

カギカッコやそれに準ずる表現(傍点、カタカナ表記など)は、単なる強調の場合もあるが、一般的な意味合いと異なる筆者特有の意図を込めていることが多い。傍線部や参照箇所にカギカッコで囲まれた語がある場合には、筆者の意図を汲み取り、それを表現した上で、カギカッコを外さなければならないのである。

→09東一.一、05東一.四、01東一.二

(例題) 「おおよその日本人が口にしていた「美しい日本語」」(傍線部イ)とあるが、ここにいう「美しい日本語」とはどのようなものか、わかりやすく説明せよ。(60字程度)〈01東大一.二〉

内容説明問題。「美しい日本語」にカッコがついていることに注意しよう。ここでは「筆者にとっての日本語の美しさ」と対比された上で、カッコをつけることで「違和感」や「皮肉」を込めていると考えられる。筆者の考える「美しさ」が、②段落「はじめて耳に入った日本語の声と、目に触れた…文字群は、特に美しかった」とあるように、日本語自体の属性に由来するのに対し、傍線部の「美しい」の根拠は属性の外にあるようだ。
それは、傍線部の次の二文で「民族の特性として日本語を共有している、という思いこみ」「純然たる「内部」に、自分が当然のことのようにいるという「アイデンティティー」」と表現される。これらを利用して、以下のようにまとめた。

<GV解答例>
言葉自体の属性に由来するというよりも、民族的同一性を基礎づけるという想定のもと肯定的に価値づけられる、日本人にとって自明の母国語。(65字)

<参考 S台解答例>
日本人として生まれた者だけがおのずから共有し、日本の文化や民族の特性と不可分に結びついた、純粋とされる日本語。(55字)

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