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風俗街の堕天使


第一章: 新宿ネオン街の闇

夜の蝶たち

華やかなネオンの光が輝く新宿の繁華街。その一角に、ひときわ妖しく光を放つビルがあった。「クラブ・エデン」。そう名を冠したその店は、一見すると高級クラブのような佇まいだ。しかし、そこは他でもない風俗店。煌びやかな外観に反して、その内部は欲望と裏切り、そして暴力が渦巻く闇の巣窟であった。

時刻は深夜。店のVIPルームの一つでは、男たちが集まり、酒池肉林の宴が繰り広げられていた。彼らは皆、暴力団「神竜会」の構成員だ。組の資金を惜しみなく使い、豪勢なパーティーを開いていた。

「兄貴! お待ちかねの新人が来ましたぜ!」

一人の若い組員が、にやけ面でそう告げる。他の男たちも期待に満ちた眼差しを向ける中、部屋の中心にどっしりと座る男...。その名は龍崎猛。神竜会の若頭補佐であり、今宵の宴の主催者である。

「ほう、ようやくか。連れてこい」

龍崎の低い声が響くと、ほどなくしてドアが開いた。そこに立っていたのは、色白で黒髪ロングの女性。歳は二十代半ばといったところだろうか。緊張からか、細い身体を小さく震わせている。

「これが噂の新人か...。いい目をしている」

龍崎はゆっくりと立ち上がり、女へと近づいていく。他の男たちもそれに続く。女は怯えた目で周囲の男たちを窺いながら、少しずつ部屋の奥へと進んでいく。

「お前が亜紀か。可愛らしいじゃねぇか」

龍崎は女の前に立つと、その顎に手を置き、無理やり顔を上げさせた。

「名前は? 年齢は?」

「あ...亜紀です。年齢は...二十...五です」

小声でそう答える亜紀。その頬を、龍崎は親指で軽く撫でる。

「ふん...。これからよろしくな、亜紀」

そう言うと、龙崎は周囲の男たちに目を配った。

「お楽しみの時間だ。好きにしろ」

それを合図に、男たちは一度に亜紀へと襲いかかる。乱暴に衣服をはぎ取られ、悲鳴を上げる間もなく、彼女は男たちの餌食となった。

暗躍する影

一方その頃、新宿の裏路地に一台の黒いセダンが停まっていた。車内には二人の男。一人は四十代半ば、オールバックの短髪に鋭い眼差しの持ち主。彼の名は風間翔。神竜会と敵対する組織「蒼天連合」の幹部である。もう一人は三十代前半、長身の男で、薄く笑みを浮かべている。

「どうだ、準備は整ったか?」

風間は運転席の男に尋ねる。男の名は氷川蓮。蒼天連合の中でも、特に冷酷非道なことで知られる暗殺者である。

「もちろんです。予定通り、明日夜十時、龍崎はあの店にいるとのこと。ターゲットの写真も入手しました」

氷川はそう言うと、一枚の写真を風間に渡した。そこには、スーツを着こなした龍崎の姿が写っている。

「よし、後は実行あるのみだ。失敗は許されんぞ」

風間の厳しい表情に、氷川はさらりと返す。

「ご安心を。今回ばかりは、奴らに地獄を見せてやりましょう」

こうして、神竜会と蒼天連合の抗争の火蓋が切られることとなった。舞台となるのは、欲望の街・新宿。一夜限りの熱い戦いが、今まさに始まろうとしていた。

第二章: 修羅の抗争

龍の逆鱗

翌日の夜。再び「クラブ・エデン」のVIPルームに、龍崎の姿があった。昨晩の乱痴気騒ぎとは打って変わり、今日は静かな様子だ。龍崎はソファに深く腰掛け、目の前の男に語りかけていた。

「で、どういう訳だ。蒼天連から使者も来ねぇなんてな」

龍崎が相手にしているのは、神竜会の古参幹部の一人、鬼塚鉄雄である。彼は昨日の一件以来、組長の命を受け、蒼天連合との交渉に当たっていた。

「それが...何故か連絡が途絶えているんです。こちらからの呼びかけにも応じず...」

鬼塚は困惑の表情を浮かべる。そんな彼に、龍崎は険しい視線を向けた。

「ふざけた真似をしやがって...。ここまで待ったのは、平和的に解決するためだ。だが、そっちがその気なら話は別だぜ」

龍崎の声が低くなり、鬼塚は思わず身構えた。次の瞬間、部屋のドアがノックされた。

「失礼します」

ドアが開き、一人の女性が入ってきた。それは昨日、龍崎らによって辱められた亜紀だった。彼女の目は虚ろで、疲れ切っているのが分かる。

「あぁ、亜紀ちゃんじゃないか。何か用か?」

龍崎の問いに、亜紀はぼそりと答える。

「本...本の仕事が終わりましたので...」

「おう、ご苦労さん。帰っていいぞ」

龍崎はそう言うと、ポケットから札束を取り出した。

「これはボーナスだ。今夜はゆっくり休め」

亜紀は龍崎の手からお金を奪うように受け取り、そのまま部屋を出て行った。その姿をしばらく見送った後、龍崎は鬼塚に向き直った。

「...話を戻すが、鬼塚。今回のことは徹底的に潰す。お前は他の幹部を集めて対策を立てろ。俺は直接、相手の懐に飛び込んでやる」

「了解しました、若頭補佐!」

鬼塚は深々と頭を下げた。龍崎は短く頷くと、ゆっくりと部屋を出て行く。彼の目に、闘争の炎が燃え盛っていた。

暗殺者の刃

同じ頃、蒼天連合のアジトでは、風間と氷川の二人による作戦会議が行われていた。

「確実に仕留められるか? 龍崎はただのチンピラではないぞ」

風間は、机上に置かれた龍崎の写真を指で弾きながら尋ねる。それに対し、氷川は落ち着いた口調で答えた。

「心配は無用です。彼のスケジュールを入手しました。毎月決まった日に、例の店を訪れているようです」

「毎月...? あぁ、なるほど。ならば好都合だ。計画を変更する必要はないな」

風間は椅子の背もたれに身を預け、腕を組んだ。

「氷川、お前には今夜動いてもらう。絶対に失敗するなよ」

「もちろんです。龍崎の首を刎ねて、神竜会に我々の力を思い知らせましょう」

氷川の瞳からは、殺意の光が放たれていた。

夜霧の銃撃戦

夜十時。新宿の繁華街に、緊迫した空気が流れる。今日は生憎の雨。辺りは厚い雲に覆われ、闇が濃く垂れ込めていた。

龍崎は傘も差さずに歩道を歩いていた。彼の足取りは速い。今日こそ、蒼天連合への復讐を果たすのだ。

「若頭補佐! 後ろです!」

突然、背後から聞こえた叫びに、龍崎は足を止めた。振り返ると、そこには神竜会の若手組員・近藤の姿。彼は息を切らしながらも、龍崎を守ろうと拳銃を握り締めている。

「近藤...。何があった?」

「先ほど、蒼天連の連中が動き出しました! 我々がマークしていた建物から出て来たのを確認しました!」

「チィ...。場所はどこだ!?」

「歌舞伎町の東端にある廃ビルです!」

近藤の報告を聞き、龍崎は即座に反応した。

「よし、そこへ直行だ。手加減はいらねぇ。全員叩き潰せ!」

龍崎の命令に、近藤の表情が引き締まる。二人は急いで踵を返し、走り出した。

血塗られた夜

廃ビルの周辺は既に神竜会の組員たちによって包囲されていた。龍崎は建物の前に到着すると、早速部下たちに指示を飛ばす。

「全員、武器を構えろ! 隙を見せたら即撃て! 絶対に逃すな!」

張りつめた空気の中、緊張した面持ちの組員たちが建物を取り囲む。誰もが、蒼天連合との激戦を覚悟していた。

「若頭補佐! 二階の窓に人影が見えました!」

一人の組員が叫ぶと同時に、激しい銃声が響き渡った。窓ガラスが割れ、弾丸が雨のように降り注ぐ。

「撃って来やがったな! 全員反撃しろ!」

龍崎の怒号とともに、神竜会の組員たちも応戦を開始する。あたりは一瞬にして戦場と化し、硝煙と銃声が夜の街を包み込んだ。

激しい銃撃戦の最中、龍崎は冷静に状況を分析していた。

(人数は少ない...。だが、プロの殺し屋だ。慎重に...)

銃弾をかいくぐりながら、龍崎は廃ビルの入口を目指す。そこへ、一人の男が立ち塞がる。鋭い眼光の持ち主...。氷川蓮だ。

「龍崎猛...。ここで死ぬ運命だ」

氷川は短くそう告げると、龍崎に向けて発砲した。龍崎は咄嗟に身を屈め、銃弾を避ける。同時に、自身の銃を氷川に向ける。

「お前が蒼天連のヒットマンか...。地獄に落ちろ!」

龍崎が発砲しようとした瞬間、氷川は素早く身を翻し、建物の中に消えた。

「追え!」

龍崎は部下たちに指示を飛ばすと、自身も建物内に突入していった。

暗殺者と風俗嬢

廃ビルの内部は薄暗く、所々に明かりの灯った部屋があるだけだ。銃を手にした龍崎は、部下の近藤と共に慎重に室内を進む。

「近藤、油断するなよ。いつ攻めてくるかわからねぇ」

「はい! 若頭補佐、お気をつけてください!」

緊張した雰囲気の中、二人は階段を上り、二階へと向かう。その途中、一つの部屋の前で足を止めた。

「若頭補佐...。この部屋から反応があります」

近藤が携帯している端末が反応を示している。龍崎はゆっくりとドアの前に立つと、拳銃を構えた。

「開けるぞ。用意しろ」

短い合図の後、龍崎はドアを蹴り飛ばした。次の瞬間、部屋の中から銃弾が飛んで来る。しかし、龍崎と近藤はすぐに物陰に隠れ、反撃を開始した。激しい銃撃戦が始まった。

しばらくすると、銃撃が止んだ。部屋の中を確認すると、そこには氷川蓮の姿はなく、代わりに一人の女性が座り込んでいた。彼女こそ、風俗嬢の亜紀である。彼女は恐怖に震えながらも、毅然とした態度を見せている。

「あんた...。昨日の...」

「お前、なぜここに...?」

龍崎の問いに、亜紀は弱々しく答える。

「私...。脅されて...。ここに連れられて...」

「脅迫...だと? ...畜生、蒼天連め...。」

龍崎は歯噛みしながら、亜紀を助け起こした。その時、部屋の外から再び銃声が轟いた。

「近藤、行こう!」

龍崎は亜紀を近藤に託すと、自身も銃を構えて部屋を出た。亜紀は混乱した表情で二人を見送る。

最終決戦

廃ビルの三階。龍崎は銃を片手に、慎重に廊下を進んでいた。敵の数は少なくなっているはずだが、まだ警戒を緩めるわけにはいかない。

「近藤、そっちは大丈夫か?」

「はい! 今のところ問題ありません!」

近藤の声が無線から聞こえる。龍崎は安堵しつつも、さらに奥へと進んでいく。その時、突然目の前の壁が爆発し、瓦礫が降り注いだ。

「くそっ! 手榴弾か!」

龍崎は身を伏せて難を逃れた。辺りは一時的に粉塵に包まれ、視界が悪くなる。そんな中、龍崎は人影が動くのを捉えた。

「龍崎! ここで終わりだ!」

現れたのは、氷川蓮。彼の右手には拳銃が握られている。

「...氷川。お前、よくも俺の邪魔をしたな」

「邪魔...? ふん、お互い様だろう」

氷川は皮肉交じりにそう返す。龍崎は構わずに続けた。

「お前の雇い主...。蒼天連合の組長に伝えろ。神竜会は引かないとよ」

「それは残念だ。だが、これで終わりだ」

氷川は銃を龍崎に向けた。次の瞬間、龍崎は身を躍らせて、氷川に飛び掛かった。至近距離での銃撃を回避するための行動だ。二人はもつれ合いながら床に転がる。

「離せ、クソ野郎!」

「簡単に逝かせはしねぇ!」

激しい格闘の末、龍崎は氷川の腕を捻り上げた。氷川は悶絶し、銃を手放す。龍崎はその銃を拾い上げると、氷川の額に突きつけた。

「...お前らの負けだ」

龍崎は冷たく宣告する。氷川は恨めしそうな眼差しを向けつつも、何も言えない。

「近藤! セーフハウスに連絡だ! 警察も動かすぞ!」

龍崎の指令に、近藤はすぐに応じた。程なくして、サイレンが遠くに聞こえ始めた。龍崎は氷川を睨みつけると、最後にこう言い放った。

「次はない...。忘れるな」

第三章: 黄昏に消えて

哀しき女

事件から数日後。新宿のとある公園で、龍崎猛と亜紀は再会を果たした。龍崎はベンチに座り、傍らに立つ亜紀に語りかけていた。

「...辛い経験だったが、お前はよく頑張った。もう大丈夫だ。自由になれ」

龍崎はそう言うと、封筒に入った現金を亜紀に渡した。彼女は複雑な表情を浮かべるが、やがて優しく微笑んだ。

「ありがとうございます...。でも、私は...」

「もういい。お前の人生だ。好きなように生きろ」

龍崎は立ち上がると、亜紀に背を向けた。去り際、彼はぽつりと呟く。

「...悪かったな」

亜紀は何も言えなかった。龍崎は振り返らずに、夕焼け空の下、その場を離れていった。

エピローグ:黄昏の誓い

神竜会と蒼天連合の抗争は、多くの犠牲者を出しながらも、ひとまずの終結を迎えた。両組織は警察の大規模摘発を受けることになったが、龍崎猛は姿を眩ませ、行方不明となっていた。

それから一年。秋の訪れを感じさせる季節。港町に一人の男がいた。彼の名は...、風間翔。かつて蒼天連合の幹部だった男だ。風間は海を眺めながら、ある手紙を読んでいた。

『風間様

久方ぶりです。お元気でしょうか。突然のお便り、驚かれたと思います。私、この度、海外にて新しい事業を始めることに致しました。そこで、是非とも風間様にお力添えを頂きたく...』

そう、手紙の送り主は龍崎猛だった。

「龍崎...。やはり生きていたか...。」

風間は手紙を畳み、静かに海の彼方に視線を移す。夕陽に照らされた水面が橙色に輝き、波穏やかだ。風間は龍崎と出会った日のことを思い出していた。


龍崎猛は、新宿の地下世界を牛耳る二大勢力の一つ、神竜会の若頭補佐だった。強靭な肉体と鋭い洞察力の持ち主で、戦闘能力は群を抜いていた。一方、風間翔はライバル組織である蒼天連合の幹部を務めていた。策略家で、頭の回転が速く、組織の参謀役を担っていた。二人は幾度となく対立したが、互いを認め合う関係でもあった。

しかし、ある事件をきっかけに、二人の運命は大きく変転することになる。


「風間...。俺はお前を頼りにしているぜ」

風間は手紙をポケットに入れると、夕暮れの浜辺を後にした。彼の脳裏には、龍崎の挑戦的な笑みが浮かんでいた。

「...地獄で逢おうぜ、龍崎」

こうして、新たな戦いの幕が上がらんとしている。

《完》


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