『街とその不確かな壁』は駄作か、集大成か
村上春樹さんの新作長編『街とその不確かな壁』を読み終わりました。最後の最後までドライブ感たっぷりの読書体験でした。
以下に、いまの時点の雑感をまとめます。もう少しまとまった、編集者視点の記事は、アイデアを形にする教室内でお伝えしようかなと思います。
すでに多くの方が言及されているように、今回の作品は、これまでの村上春樹の作品世界の延長線上で展開されています。よく言えば「集大成的作品」であり、悪く言えば「過去作の焼き直し」と言えるかもしれません。
ただ、村上さん自身があとがきでも書いていますが、多くの作家にとって「書くに値するテーマ」というのは、そういくつもあるわけではありません。これまでコンスタントに長編を書き続け、71歳を迎えた作家の新作に、過去作のテーマが繰り返し現れたとしても、それをもってネガティブに評価すべきではないように思います。
イタリアンレストランでペペロンチーノが出されて「またかよ!」と怒るのは理不尽ですし、少なくとも今作を最後まで読み切れば、これまでの作品になかった「何か」が感じ取れることは間違いありません。
まあとはいえ、これまで村上春樹を読んだことがある読者にとっては、(特に第一章については)既視感は免れないでしょう。
僕らは人生のなかで、さまざまな体験をします。そのうちのいくつかには向き合い、それ以外の多くは、視界の外に追いやります。僕らが人生の中で真の意味で「向き合う」機会はそう多くはありません。
そして、その「向き合い方」が、さまざまな側面からみて誠実で、真っ当であるかということを、(続)
僕らは無意識レベルで、喉に魚の小骨が引っかかっているかのように、気にしている。村上春樹の小説を読んでいると、読者はそれぞれの「喉に引っかかった小骨」に気づかされます。
物語のなかで、さまざまな人物と出会うなかで「僕」が自分の現在地とこれから目指す方向を見出していくに従い、読者もまた、これまで意識の外に追いやっていた自分に気付かされるわけですね。
まあ、いろいろと書きましたが、登場人物は非常に魅力的です。人物描写、情景描写、展開など、創作クラスタは参考になるところ多々あると思います。よろしければぜひ!
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