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創業から675年!塩瀬総本家の商い
100年以上続く企業が一番多いのは
ここ日本だというのは有名な話です。
そのうちの一つ、創業から675年経つ
という、日本の饅頭の元祖的存在、
「塩瀬総本家」の第34代当主である
川島英子さんは、今年で百歳の長寿!
その川島さんのインタビュー記事が
『致知』12月号に掲載されています。
この記事で個人的に興味深くよませて
もらったところが二点ありましたので、
それぞれご紹介させてください。
一点目は、川島さんご自身がリスクを
とって、老舗の「歴史的な転換」を
見事に成し遂げたエピソードです。
当主になって三年目のときに、
歴代の当主がすべて断って来た
小売店(デパート)への出店要請を
初めて受け、銀座松屋に出店する
決断を行いました。
600年以上、卸売しかやったことがなく、
婚礼の引出物需要を中心にその業績が
順風満帆だったため、この決断には
社内中から猛反対を食らったとのこと。
それでも、限られた人たちを対象にする
のではなく、老若男女問わずより多くの
方々に、塩瀬のおいしいお菓子を広く
知ってもらいたい、食べてもらいたい。
そんな思いを胸に、経営者として一歩も
引かずに意志を押し通したのです。
結局その後に時代が変わって、
引出物は洋菓子主体になっていきました。
「時代から取り残されるかもしれない」
という不安も後押ししたという川島さんの
決断が、正に会社を救う決断だったと
後から証明されたわけですね。
この時に、小売主体への転換を果たせた
からこそ、今に至るまで暖簾を守り続ける
ことができたのでしょう、そんな風に
川島さんが振り返っていたのがとても
印象的でした。
二点目は、非常に堅実な経営を志して
いる「塩瀬総本家の家訓」です。
まずはその家訓を引用しましょう。
【今日一日の事】
一、今日一日三ツ君父子の御恩を忘れず不足を云ふまじき事
一、今日一日決して腹を立つまじき事
一、今日一日人の悪しきを云はず我善きを云ふまじき事
一、今日一日虚言を云はず無理なることをすまじき事
一、今日一日の存命をよろこんで家業大切につとむべき事
右は唯今日一日慎みに候。翌日ありと油断をなさず、忠孝を今日いち日と励みつとめよ。
【崋山先生の商人に与へたる教訓】
一、先づ朝は召仕より早く起きよ
一、十両の客より百匁の客を大切にせよ
一、買人が気に入らず返しに来たら売る時よりも丁寧にせよ
一、繁盛するに従って益々倹約せよ
一、小遣は一文よりしるせ
一、開店の時を忘るな
一、同商売が近所にできたら懇意を厚くし互に励めよ
一、出店を開ひたら三ヶ年食料を送れ
前半は、
先祖のご恩を忘れるな
不足を嘆くな
腹を立てるな
悪口言うな
無理するな
命があることを喜べ
といった具合に、ごく当たり前ながら
つい忘れがちな道徳を示して、
毎日毎日を正しく生きる指針にせよ、
といったところでしょうか。
後半は、「蛮社の獄」で有名な蘭学
研究者・渡辺崋山の言葉でしょうか。
こちらは、商人に対する教訓なので、
商売繁盛のために守るべき行動基準を
説いた内容となっています。
二つ目にある
「十両の客より百匁の客を大切にせよ」
というのは、沢山買ってくれるか否かで
客を差別するなということですよね。
どのお客様にも分け隔てなく、
一客一客を大切にすることが、
信頼の積み重ねにつながるという
老舗ならではの味わい深い教えだと
感じました。
また、三つ目にある
「買人が気に入らず返しに来たら売る時
よりも丁寧にせよ」
というのも、まずお客様との信頼関係を
築くことが大切であって、目先の小さな
不利益に汲々とするなかれ、そんな教え
だと解釈しました。
こういった教えをただの「美辞麗句」に
終わらせずに、社員一人ひとりが
「自分ごと化」できれば、
塩瀬総本家のような強靭な企業へと
近づくことができるのでしょう。
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