あるクラリネット奏者の気付き
ドラッカーが残してくれた名言は
数多いが、その中でも特に大きな
インパクトのある言葉が、
「何をもって憶えられたいか?」
である。
日曜の朝、恒例の読書勉強会に参加し、
『プロフェッショナルの条件』を
メンバーと一緒に読み進めていた。
間もなくこの本も終わるのだが、
最後にこの名言について書かれた
章があてがわれている。
改めて読む中で、クラリネット奏者の
事例が気になったので、簡単にご紹介
しておきたい。
同書にある該当箇所を抜き出す。
その奏者は、それまで客席から演奏を聴いた
ことがなかった。
オーケストラで演奏するようなプロの奏者に
そんなバカな例があるのだろうか?
というような疑問を呈した方もいたが、
一応この字面を素直に受け取るならば、
そのように解釈せざるを得ない。
そして、お客様の立場になってみるという
体験を、その奏者は「初めて」体験した
ことにより、大いなる成長を遂げたのだ。
それは、「音楽を創造するようになった」
という結果に表れる。
これが一体どんな状態を指すのか、
音楽の心得がない私には、今一つピンと
来ないが、恐らくはこういうことでは
なかろうか。
即ち、従来は楽譜通りに演奏することが
上手にできたに過ぎなかった。
それが、お客様の側からどう聴こえるかを
体験したことで、オーケストラの周囲の
仲間といかにコラボレーションしていける
かに注意し、楽譜通りに演奏しつつも、
その場その場の空気に合わせた微妙な
アレンジにまで注意が及ぶようになった。
お客様の気持ちに立つことの大切さは、
マーケティングや営業に携わったことの
ある方ならば、耳にタコができる程に
何度も聞いているだろう。
ただ、大切さを何度も聞かされて、
頭で理解しているだけではやはり
十分とは言えない。
実際にお客様の気持ちになる体験を、
体感をすることが欠かせない。
そのクラリネット奏者は、
お客様として聴く体験を通じて、
新たな視点を得た。
視野が広がり、視座が上がった。
結果、ただただ演奏の上手な奏者に
止まらず、創造的な演奏に貢献する
一流の奏者へと成長を果たしたので
ある。
ドラッカーの文章(上田さんの翻訳)は、
スパッと言い切っているものが多く、
解釈で補わないと真意を図りかねる
ことに時折出会う。
そんな場合でも、読書勉強会では
多様な参加者から様々な解釈が寄せられ、
大抵の場合自分では気付かなかった
考えに出会えるのが楽しい。
今回も、正にそのような楽しい
ひとときを堪能させていただいた。