Consumer is BOSS
20年以上、消費財や化粧品の分野で
マーケティングの仕事をしてきて、
かなりの数の上司、部下、同僚と
仕事をさせてもらった。
その中には、P&G出身者も数多く、
10名は下らないと記憶している。
P&Gは、「マーケター養成所」的な
評価をされており、数々の優秀な
マーケターが巣立っている。
マクドナルドのCMOとして活躍し、
最近ファミリーマートのCMOに
就任した足立光さん。
ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)
のCMOとして大ナタを振るい、
見事によみがえらせた森岡毅さん。
吉野家の常務取締役として、
業績回復を牽引した伊東正明さん。
数え挙げるときりがない。
そのP&Gには、様々なマーケティングの
フレームワーク(考え方の枠組み)や
格言の類が存在しているが、
特によく耳にするのが、
Consumer is BOSS.
という短い一文である。
直訳すれば、「消費者がボス。」
三波春夫の「お客様は神様です」では
ないが、とにかく一番偉いのは、
モノを買って使ってくれる消費者で
あるということ。
消費者が買ってくれなければ、
商売は成り立たない。
買うためにはお金が必要で、
そのお金の入っている財布のひもを
握っている消費者こそが一番。
当たり前というなかれ。
会社という組織の中で働いていると、
いつしか消費者以外の人たちの
意を汲むことばかりに気が行って、
肝心のボスに対する配慮のない
モノが出来上がるなんてことは
「あるある」なのである。
消費者がボスだからこそ、
マーケティングにおいては
消費者調査というものをよく
実施する。
試作品を使ってもらったり、
キャッチコピーを見せたりして、
消費者の実際の反応を事前に
確かめるのだ。
仮にA、B、Cの三つの案があり、
「これは絶対Aが勝つはず!」
と担当者が思っていたとする。
それでも、ふたを開けてみれば、
Aは大差で敗れ、ダークホースの
Cが勝つなんてことは日常茶飯事。
どんなに自分がAを気に入って
いても、「消費者がボス」の
命題の前には無力だ。
ここで、何とかAを勝たせたいから
ということで、質問の仕方を工夫
したり、余計な操作をし始めると
事実が歪む。
自分だけでなく、上司が、社長が
気に入っているから、などという
政治的な理由でそんな操作をする
という話もあるだろう。
いずれにしても、ボスたる消費者を
ないがしろにする行為。
他方、消費者調査など要らない!
という考え方もある。
差し障りのない、つまらない結論
しか得られないのが調査という
もの、そんな考え方だ。
これはこれで一理ある。
消費者は万能ではなく、今市場に
あるものしか知らないわけで、
奇想天外なものであればあるほど
「理解」が追い付かず、どんなに
時代を先取りしていても、消費者
からの評価は散々、そんなことも
また「あるある」なのである。
いずれにしても、「買う」という
行為を通じて審判を下す消費者こそが、
マーケターが真剣に攻略すべき相手
であり、それは自分でもなければ
組織の上司でもない。
そんな重要で基本的な視座を、
「Consumer is BOSS.」という
一文が思い出させてくれるのだ。