消費者リサーチは時に嘘をつく
インテージという、国内最大手の
マーケティングリサーチ会社がある。
私も仕事でお世話になり始めてかれこれ
20年程度のお付き合いになるだろうか。
マスマーケティングに携わる者には、
切っても切れないご縁のある会社だ。
POSデータを全国の小売店から集め、
「拡大推計」という手法を使って
販売金額、数量、単価といった要素を
全国、エリア別、チャネル別等の
ありとあらゆる切り口で抽出可能な
データベース「SRI+®」を提供している。
この手のデータ提供を行う「市場」に
おける彼らのシェアは、一説には90%超
とか、95%などと言われており、
事実上の独占企業なのだ。
それ以外にも様々なリサーチサービスを
展開しているインテージだが、
毎年1回「インテージフォーラム」と
いう顧客向けの無料セッションを開いて
おり、先週そこに一部参加させてもらった。
1時間程度のセッションが、連日何個も
開かれており、興味のあるものを視聴する
趣向のイベント。
仕事と重なって、なかなか思うようには
参加できない中、唯一参加が叶ったのが
「CX起点で描くエンゲージメントデザイン」
と題したセッション。
その中で、ボタニストで有名な
I-ne(アイエヌイー)の小林氏が、
「YOLU」の開発秘話を語っていたのが
非常に興味深かった。
「YOLU」は、ご存知の方も多いと思うが、
「夜、寝ている間に髪をケアする」
というユニークなコンセプトで、
大いに人気を博している。
この「YOLU」のコンセプトを調査した際、
実は調査上はこれよりも高い購入意向を
示した別のコンセプトがあったそうだ。
しかし、I-neの経営陣は、定量的には
「YOLU」を上回るコンセプトをあえて
蹴って、「YOLU」に賭けたのだという。
そのコンセプトが謳っていたのは、
「髪がシルクのように滑らかになる」
というような、言ってみればありふれた、
誰もがそうなりたいと言いそうな内容
だったらしい。
これに対して、「YOLU」のユニークさ、
これまでにないという斬新さは、
群を抜いていると判断したのだ。
定量データを鵜吞みにせずに、
「YOLU」を選んだ経営陣の慧眼と
勇気ある決断の勝利である。
リサーチをやって、勝った方を選ぶことは
誰でも出来る。
万一失敗しても、リサーチで出た答えを
選んだ以上は、誰も責められない。
しかし、リサーチは時に嘘をつく。
嘘は言い過ぎかもしれないが、
必ずしも大ヒットの萌芽を見抜けるとは
限らないのだ。
リサーチの設計から結果に至るまで、
プロがどんなに綿密に取り組んでも、
どこかしらバグが発生したり、
解釈の分かれるデータが出て来たり、
ことは簡単に運ばない。
所詮、リサーチで得られたデータは、
その時点での傾向の一つの読み方、
解釈の仕方に過ぎないと言える。
それを元に、自分たちがどんな未来を
描いていきたいのか、お客様にどんな
価値を提供していきたいのか、それを
実現するための判断ツールとして
活用されてなんぼなのだ。
そんなことを再認識させてくれる、
貴重なセッションとなった。
関係者に感謝である。