「豊かな資本主義」を考える
先日、ブルネロ・クチネリの
『人間主義的経営』という本を
ご紹介しました。
この記事の中で触れた通り、
訳者の岩崎春夫さんもご参加される
読書会に参加するために、
予習をしておく必要があったのが
本を買ったきっかけです。
先日、その読書会に参加してきました。
主催は、音声メディアコンテンツを
提供しているVOOXというメディア。
参加者は総勢15名ほどでしたが、
皆さんやはり知的好奇心旺盛な方々
ばかり集まっていらっしゃって、
初対面ながらとても活発なやり取りと、
意気投合した感じの心地よい雰囲気に
包まれた読書会となりました。
肝心の中身については、
訳者の岩崎さんがそれは素晴らしい
プレゼンテーションをご用意して
下さっており、それを拝聴した後に
参加者がそれぞれ感想を述べ合うと
いう形式でした。
先日の記事で触れた通り、
この本で最も有用・有益なパートは、
ともすると硬くてやや分かり難い文章を、
非常に分かりやすくかみ砕いた上で、
文脈を補足しつつ説明してくれている
「訳者あとがき」だと言えるでしょう。
今回拝聴したプレゼンは、この
「訳者あとがき」を更に進化させたと
言って良い内容で、同書を読み解く上で
大変貴重な「補助線」となる内容でした。
その「補助線」として使われていた概念が、
「7つの資本」と「豊かな資本主義」です。
「7つの資本」とは、岩崎さんの説明に
よると、以下のものを指します。
従来の「資本主義」における「資本」とは
「1.財務資本」と「2.物的資本」のみで
構成されており、それらわずか二つの資本
のみで成り立っている旧来の資本主義と
いうものは「貧しい資本主義」である、
という整理をされていらっしゃいました。
そして、対照的に「豊かな資本主義」と
いうのは、他の5つも含めた資本をフルに
活用して経済を回していく、そのような
考え方であるとの説明だったのです。
言い回しが抽象的で分かりにくいと思う
ので、より具体的な話を挙げましょう。
ブルネロの本の中に、彼が村の教会に出資
する話が出てきます。
古くなった教会の建て替えの資金援助を
頼まれた彼は、是非援助したいと述べつつ、
即座にYesとは言いません。
かねてから審査中だった証券取引所への
上場が認められ、資金調達の目途がついた
直後、最終的に出資することを決めて、
それを教会の側に速やかに伝えました。
このエピソードをサラッと読んだだけでは、
「それで?」
という感想で終わりですよね。
私もそうだったのですが、岩崎さんの
「補助線」が引かれて、なるほど!と
思わず膝を打ちました。
ブルネロにとって、教会の修復は
「6.社会資本」を充実させる手段であり、
そうした社会資本を充実させることは
「豊かな資本主義」を目指していく上で
「コスト」以上に重要、つまり「投資」
なのだということなのです。
利益を内部留保に回すよりも、
社会資本を充実させて、村全体を
「豊かな資本主義」が息づく場へと
生まれ変わらせよう、そんな強い
信念を感じました。
従来通りの資本主義的な見方、すなわち
「財務資本」と「物的資本」重視の考え方
では、教会の修復という選択肢はただの
道楽、せいぜい寄付に過ぎません。
それを、確固たる信念に基づいて、
「投資」として実行してしまうところが、
クチネリさんらしさと言ってよいのかも
しれませんね。