第1回 ハンドメイド作品を模倣から守るための知的財産権について
ハンドメイド作品は、作者の創造性と労力が込められた貴重なものです。しかし、残念ながら、作品が模倣されたり、無断で使用されたりするトラブルは少なくありません。
このようなトラブルを回避するために、知的財産権が存在します。以下では、ハンドメイド作品を保護する知的財産権について、法律に沿って解説します。
なお、法律は、一定の「要件」を満たしたときに一定の「効果」が得られるように構成されており、複数の要件のうち1つでも欠けると効果が得られないなど、難しい面があります。事案ごとに個別に検討する必要がある点にご留意ください。
1.知的財産権とは?
知的財産権は、知的財産基本法[※1] で定義されており、概略、創作を保護する権利と、使用者の信用を保護する権利に大別されます。
創作保護 ⇒ 著作権、意匠権、特許権、実用新案権 など
信用保護 ⇒ 商標権 など
2.ハンドメイド作品を保護するための主な知的財産権
(1)著作権
著作権は、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作物)を保護します[※2]。アイデアそのものは保護しません。実用品のデザインも原則として保護しません。
(2)意匠権
意匠権は、物品(作品)の形状、模様、色彩などのデザイン(意匠)を保護します。実用品のデザインも保護します。この点、著作権とは異なります。
なお、2020年4月1日施行の改正意匠法により、「物品」のほか、「画像」、「建築物」および「内装」のデザインについても意匠権で保護できるようになりました。
(3)特許権、実用新案権
特許権、実用新案権は、技術的なアイデア(発明、考案)を保護します。
(4)商標権
商標権は、文字、図形および記号など、商品やサービス(役務)を識別するための商標と、その商標が使用される商品やサービス(役務)との組み合わせを保護します。
3.ハンドメイド作家が知っておくべきこと
(1)著作権
・著作権は、著作者が作品(著作物)を創作した時点で自動的に発生します。
・実用品のデザインであっても、応用美術(芸術的な要素が強い実用品の意味)に属するものは保護対象となることがあります[※3]。
・ハンドメイド作品の多くは実用品であり、著作権が認められることは稀ですが、登録なしに自動的に発生することから争いになりやすいと言えます。
・自分の作品が、たまたま先に創作された他人の作品と似てしまった場合、他人の作品に「依拠(参考にするの意味)」していなければ、著作権侵害になりません[※4]。
(2)意匠権
・意匠権は、特許庁で審査を経て設定登録されることにより発生します。
・応用美術は、著作権で保護されるかについて争いが生じやすいため、意匠権で保護を受けることが得策です。
・自分の作品が、たまたま先に創作された他人の作品と似てしまった場合、他人の意匠権が成立していれば、当該作品を販売する行為は意匠権侵害になります。「依拠していない(知らなかった)」では済まされない点が著作権とは異なります。
(3)特許権、実用新案権
特許権は、特許庁審査官による審査を経て発生しますが、実用新案権は、審査を経ずに発生します。そのため、実用新案権の方が権利取得の費用が安くなりますが、権利の信用性は低くなります。
(4)商標権
・自分の作品(商品)について既に商標を使用している場合でも、後発の他人が先に同じ商標の商標権を取得すると、その後、その商標を使用する行為は商標権侵害になります。
・先使用権[※5]が認められる場合もありますが、その成立要件が厳しいため、救済されることは少ないです。
・商品名やブランド名を商標登録していないと、後出しジャンケンに負ける悔しさを味わうかもしれません。
(5)その他
・他人の作品に著作権や意匠権が成立していない場合でも、他人の作品の形態をデッドコピー(そっくりそのまま模倣)する行為は、不正競争防止法により禁止されます[※6]。
・ただし、禁止期間は、他人の作品が日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過するまでに限られます[※7]。
・なお、他人の作品が周知・著名になっていると、3年を経過してもその作品を模倣できない場合があります[※8]。
・他人の作品を模倣すると、自分のブランドイメージが失墜し、信用回復のために大変なおもいをすることになります。
4.ハンドメイド作品を保護するための具体的な対策
(1)他人から訴えられないための対策
・自分の作品を販売する前に、他人の著作権、意匠権および商標権が存在しないことを確認します。また、不正競争にならないことを確認します。
[例]意匠権の調査
日本意匠分類/Dタームによる検索
B2-610 帽子 意匠検索URL https://www.j-platpat.inpit.go.jp/d0100
・作品の機能に技術的な特徴があれば、他人の特許権や実用新案権が存在しないことも確認します。
・他人が権利取得しているデザインと似ている、と感じたら直ちに専門家に相談します。技術的なアイデアや商標、不正競争についても同じです。
※特許庁に登録された権利は、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で確認できます。
(2)自分のハンドメイド作品を保護するための対策
・著作権表示「©+最初の発効年+著作権者の氏名」をすることで、自分が著作権者であることを主張します。
・著作物の創作時[※9]または創作日を証明できるように証拠を残します。
・必要に応じて、意匠権、商標権、特許権、実用新案権を取得し、登録表示や特許表示をすることで、自分が権利者であることを主張します。
5.まとめ
ハンドメイド作品を保護するためには、知的財産権や不正競争について正しい知識を持ち、事案に応じて適切な対策を取ることが重要です。
しかし、YouTubeなどでは、著作権と商標権を混同した解説、意匠権や不正競争に触れられていない解説、原則と例外を取り違えた解説など、不適切・不十分な解説が多く出回っています。
法律の条文が複雑に絡み合っていますので、迷ったときは、うはら特許事務所の無料相談(zoom相談可)をご利用ください。ハンドメイド作品づくりに取り組む弁理士が真摯に対応させていただきます。
弁理士岡野眞人
https://www.uhara-po.com/
2024/8/17
※1 知的財産基本法(定義)
第2条 この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。
2項 この法律で「知的財産権」とは、特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう。
<省略>
※2 著作権法(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
1号 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
2号 著作者 著作物を創作する者をいう。
<省略>
※3 知財高判平成 27 年 4 月 14 日判時 2267 号 91 頁
本判決は、応用美術について、他の表現物と同様に表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば創作性がある、として著作物性を認める立場をとった。本判決の解釈によれば、実用品のデザインに著作権が成立し易くなる。
※4 ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー 事件(最判昭和53.9.7)
「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はない」
※5 商標法(先使用による商標の使用をする権利)
第32条 他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(第九条の四の規定により、又は第十七条の二 第一項若しくは第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第十七条の三第一項の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。
<省略>
※6 不正競争防止法(定義)
第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
<省略>
3号 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
<省略>
※7 不正競争防止法(適用除外)
第19条 第三条から第十五条まで、第二十一条及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
<省略>
6号 第二条第一項第三号に掲げる不正競争次のいずれかに掲げる行為
イ 日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
ロ 他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者(その譲り受けた時にその商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)がその商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
<省略>
※8 不正競争防止法(定義)
第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
1号 一他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
2号 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
<省略>
※9 著作権法(保護期間の原則)
第51条 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)七十年を経過するまでの間、存続する。