壽新春大歌舞伎 夜の部 感想
はじめに
観劇後ドタバタしていた為感想をまとめるの2週間程遅くなった為、ざっくりとした感想を書くにとどめる。
一、熊谷陣屋
いつもの事ではあるが、松緑が酷すぎる。
デカい声を出すのはいいが、トーンが同じで抑揚が無い。結果的に小さい声よりも聞き取りづらい。
さらに酷いのは、より声を張り上げる必要のある場面で声が飛んでかすれていた。大きな高い声が出ないのならば、出せる音で張り上げられるようにほかの場面を調節すべきでは無いのか。
後日聞いた話だが、松緑は私の観劇した1/13は風邪をひいていたらしい。役者なら自己の体調管理ぐらいちゃんとしろとも言いたいが、体調不良は仕方がないので可哀想だなと思う。
恐らく体調が良くても程度は低い事は容易に想像できる。
良かった役者は萬壽と歌六。雀右衛門も悪くなかったが萬壽の方が数段良かった。
亀蔵は覚えていない。芝翫は元々なのか工夫なのか分からないが声が小さくナヨナヨしており歌六に負けていた。
恥ずかしながら歌六を初めてみたが、台詞の言い回しが歌舞伎のイメージ通り、と言うか、歌舞伎の口調ってこんな風だよね、と言うような美しい調子で聞いていて心地が良かった。
歌舞伎から口調やリズムが無くなったのかと思っていたが、若手が下手なだけという事がしっかりわかった。
萬壽は相模の感情の昂り一つ一つがしっかり分かって素晴らしかった。ただ悲しそうにしているのではなく、何がどう悲しいのか、悲しさの度合いの違いなど、細かく考えている事が伝わってきた。
熊谷陣屋は萬壽がいちばん良かった。
あと、松緑に直実は早すぎる。
そもそも大役を松緑にばかりやらせても、もう希望がないと思う。ほかの若手を抜擢してやれよ。
一、二人椀久
あまり良くなかった。
右近が雑だった。覚えた動きをそのままなぞっているように感じた。手の動きや位置に工夫や思想が感じられなかった。舞踊を工夫で変えて欲しいという事が言いたいのでは全くない。
例えば、椀屋久兵衛が何を思っているのか、場面によって細かく変わるはず。
悲しさであればどんな悲しさを表現したいのか、狂気であればどんな風に狂っているのか、舞踊は台詞が無い分動きで表現しなければならないのに、肉体からの表現がまるで感じられなかった。
繰り返すが、覚えた動きを順番になぞっているだけの様に感じた。
初演の新作で三枚目の役をやる事に気を取られていたのか。
壱太郎は良かった。
動きが丁寧で、可愛らしさがあった。
壱太郎が丁寧に舞う為右近の雑さが際立った。
一、大富豪同心
感想
私は古典が好きなので、自分から新作を見る事はなく、新作だからどうせ良くないだろうと思っていたが、そうではなかった。
結果的に夜の部でいちばん良かった。
転換があるとは言え熊谷陣屋とそこまで変わらない上演時間で遥かに短く感じた。
原作の小説もドラマも見ていないので、何が原作やドラマを踏襲した演出なのかは分からないのは許して欲しい。
結論としては、気に食わない点はいくつかあるものの、それでも面白かった。
江戸時代が舞台で内容が難解では無い、歌舞伎を初めて見る人、まだ見慣れていない人にはピッタリの内容だった。
コミカルなので笑い所も多く、歌舞伎はカッチリしていて気が張るというイメージを払拭してくれる。古典だと中々そうはいかない。
冒頭とそれから少し後でハープ等を使った洋風?なBGMが流れる。歌舞伎らしくない音楽なのだが、このBGMが最初に流れたきりで途中に使われない。1番最後のダンスで流れるだけ。(このダンスの意味もよく分からないのだが…)
変な音楽を使うならそれを使い続ける演出をして欲しい。
そうでないなら別に三味線とかでいい、現に劇中の緊迫した場面では三味線の演奏だった。
その為、BGMは最初からから三味線等の古典と同じものでいいと思ってしまった。
また、悪役が主人公を監視している場面があるのだが、喋る際に時間を止める演出を何度かしていたのだが、その特殊能力が有ると匂わせるだけで、なにも無いのはよく分からなかった。ほかの役者の動きを止めて、舞台を薄暗くしてして内容の無い事を喋る気味の悪さが残っただけ。
最終的に普通に殺陣をしてやられるだけなので、ファンタジー要素が一切不要だった。
また、一番最初に幇間の銀八(右近)があらすじや設定を説明するのだが、これが良くない。
大した情報は無いのだから、全て台詞の中に組み込んで説明ができる。
1番最後の終わり方がメタなのが非常に良くない。
「落とし所が無くなったから幕を閉めちゃおう」なんと言う台詞で終わらせるのは言語道断。
落語なら「冗談言っちゃいけねぇ」、講談なら「お時間がいっぱい」、浪曲なら「丁度時間となりました」。終わり方等いくらでも方法はある。客を現実に突き放すな。極めて無礼。
思い出しただけで腹が立ってきた。
良かった役者
隼人は格好が良かった。
言ってしまえばそれだけ。上手くは無いが、上手さを求めるような内容でもないからこれでいい。
特に良かったのは笑三郎、次に亀鶴。
亀鶴は場面こそ少ないが、その少ない場面の中、ほとんどのセリフで笑いを取っていた。動きだけでも笑いを取っており異質だった。
笑三郎は酒宴の場で大量の酒を飲まされる。酔いが回る前の飲み方と回った時の飲み方の違いもコミカルに演じ分けており、その後の場面での酷い二日酔いで、吐きそうになる演技はくどくはあるものの大いにウケていた。
ただ、酒宴の場面で馬鹿みたいな量のお酒を飲まされるのだが、無理やり飲まされて、酔ってきて更に飲むという様な感じであったのは良くない。
少しでも大井御前がお酒が好きだか我慢をしているとか、飲みたいけどどうしよう…みたいな設定を少しでも台詞や所作で出さないと笑えないぐらい可哀想。酷い量飲まされてるから。
自分が我慢できずに飲んだなら二日酔いの下りもより面白くなるはず。
幸四郎は可もなく不可もなく。
存在感はなかった。
鴈治郎は劇中では違和感なく場面が終わったのだが、
カーテンコール?の際に演者が冒頭の洋風の音楽に合わせて踊るのだが、鴈治郎は普通に踊っているだけなのにびっくりするぐらい面白かった。
理由は分からない。
踊りの最中も隼人が早着替えをして出てくるが、みんな鴈治郎に目を奪われていた。
最後の最後で続きを匂わす演出があった
(続く…かも…と書いてある屏風を見せて終わり)が、続きが面白くなりそうかどうかは微妙。
ただ、上演部分は面白かった。再演するなら、私自身がまた見たいとは思わないけど、歌舞伎を見てみたいと言う人にはおすすめできる。