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セラードに入植したコチア青年の菅原正芳(すがはら・まさよし)さん 移民の肖像 松本浩治 2021年6月号

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#移民の肖像
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#松本浩治 (まつもとこうじ) 写真・文

菅原正芳さん[1]

 バイア州西部のバレイラスには1980年代半ば、セラード開発の一環としてコチア青年グループ、プロデセール㈼(日伯農業開発第2次計画)、COACERAL(中央ブラジル・セラード農業組合)などを通じて日本人一世や日系人が数多く入植した。しかし、80年代後半にはハイパー・インフレとなり、銀行などから営農資金を借り入れた人たちの借金が雪だるま式に膨れ上がるなどし、大きな打撃を受けた。

 日伯両政府の出資金を比較的効率よく回せたプロデセール㈼耕地に対して、1本の道を隔てて明暗を分けたのがコチア青年団地だった。84年、コチア産業組合中央会は当時の井上ゼルバジオ会長が先頭に立ち、セラードの広大な土地に憧れたコチア青年たちを募って視察を実施。パラナ州カストロでバタタ(ジャガイモ)作りをしていた菅原正芳さん(60、岩手県出身)も同地に入植した1人だった。

 菅原さんはコチア青年第2次12回生として、61年に渡伯。パラナ州カストロの山本辰雄(たつお)農場に入った。70年に独立してバタタ作りを続けてきたが、過渡期に入っていた中で、「(大豆生産などの)雑作(ざっさく)をやってみたいという気持ちが強かった」ことからバレイラス行きの考えを固めた。

 当初、コチア青年団地入植の前宣伝は1ロッテにつき800ヘクタールで、営農資金も出資されるはずだった。しかし、コチア側が日本政府から出た資金を流用。現場は区画整理が出来ていない状態で、菅原さんは1年目はCODEVASF(サンフランシスコ河流域開発公社)の狭い入植地に住まわざるを得なかったという。

 1年間待たされたあげく、ようやく入れた土地は前宣伝の半分の400ヘクタール。土地購入資金は出資されたが、土地の区画や道路設備にかかった費用を分担金として、逆に2万ドルをコチア側から要求された。しかし、菅原さんはすでに資金もなく、他に頼るところもなかった。コチア青年団地の入植条件として、他に土地を持っている者は除外されるため、菅原さんはパラナの土地を売り払い、日本の兄からも借金をしていた。

  CODEVASFに居た分、青年団地への入植が一番遅れた菅原さんは入植1年目、50ヘクタールを開き、陸稲を植えた。土地ができていないため、1年目から大豆は生産できない。景気の良い者はパラナから大型トラクターを持ってきたが、菅原さんにはそんな余裕もない。区分けされた場所は木が少ないこともあって、広大な土地を家族と一緒に鍬を持って人力で開いた。

「収入がないのに子供が5人もいたし、とにかく、金を使わない方法を考えました」

 にもかかわらず、コチア本部からは1年間で150ヘクタールの開墾命令が出された。

「当時のコチア中央会開発委員会から、150ヘクタールを開けないなら今すぐ出て行けと言われました。でも、我々は見知らぬ土地に来て開墾資金も出ないまま、1年で150ヘクタールも開墾するのは無理だと訴えました」 

 一方、150ヘクタールの開墾ができない菅原さんら生産者に業を煮やしたコチア中央会は、担保となっている土地の取り立てを強行。菅原さんら数人の日本人生産者は拒否したが、中央会が裁判に訴えた場合、銀行からの融資ができなくなることを憂慮して、泣く泣く土地を組合側に手放した。それでもコチア中央会のやり方に数人が抵抗。1人の日本人生産者が「背水の陣」の思いで訪日し、日本の篤志家から図らずも50万ドルを借りることができたという。

 篤志家は土地代や営農資金の出資のほか、土地の保証人にまでなってくれた。コチア中央会から改めて土地を買い受けた菅原さんたちは別の場所に土地を借り、3年目には農業機械を購入。篤志家への借金を返済し、「本当の自分の土地」として800ヘクタールを所有できるまでになった。

 苦い経験の連続から、土地面積は他の生産者より小さくても借金をしないように心がけてきた菅原さんは、ハイパー・インフレの影響を受けることもなく、その後もコツコツと土地を切り開いてきた。

「他の人たちは故郷があったが、私はカストロ(パラナ州)の土地を捨ててきたために帰る場所がなかった。無理せず、地道に土地を開いてきたことが良かった」と語る菅原さん。陽に焼けた顔に刻まれた皺(しわ)が、セラードを生き抜いてきた現実を物語っていた。

(2000年4月取材、年齢は当時のもの)

松本浩治(まつもとこうじ)
在伯25年。
HP「マツモトコージ写真館」
http://www.100nen.com.br/ja/matsumoto/


月刊ピンドラーマ2021年6月号
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