見出し画像

ドキュメンタリー映画「オキナワ サントス」の松林要樹監督インタビュー 月刊ピンドラーマ2024年9月号

今年の7月25日ブラジル政府は、第2次大戦中にサンパウロ州サントスに住んでいた約6500人の日系人を「敵性外国人」と見なして居住地から強制退去させ収容所や内陸の居住地に送った「サントス強制退去事件」と、戦後日系人社会の中で起こった「勝ち負け抗争」に関わったとされる「勝ち組」172人をサンパウロ州沖アンシエッタ島の刑務所に収監した件に関して初めて公式に謝罪した。

「サントス事件」で強制退去させられた日系人の約6割が沖縄県系人とされ、ブラジル沖縄県人会がこの件に関してブラジル政府に謝罪を請求してきた。請求運動を起こすきっかけとなったのが「サントス事件」を取り上げブラジル沖縄県人会と共に作ったドキュメンした。タリー映画「オキナワ サントス」である。

2016年松林要樹監督がサントス日本人会館で強制立ち退き者の585家族の名簿を見つけたことがきっかけとなって証言者探しが始まり、沖縄県人会が組織だって雑誌「群星」に記録として残すことを始めた。それが謝罪請求運動を強く後押ししたのである。

謝罪審議会見を撮影するためにブラジルを訪れた松林監督(今回が6回目の訪伯)にインタビューした。


◎謝罪に関して

今年の2月に「夏くらいに謝罪請求が審議される可能性がある」と沖縄県人会の宮城あきらさんから連絡があり、その時期は謝罪審議会見を撮影するために外に仕事を入れず空けておこうと思いました。また、4月末ごろから日本の地上波のテレビ局で謝罪請求の件を取り上げてもらおうと何局もまわりましたが、大きく扱いたいという話がいったんは出たものの、謝罪の翌日(7月25日)からオリンピックが始まるのでストレートニュースが出せるくらいだけで、それどころではないと長尺の企画の提案を断られました。ところが断りの連絡が出国当日に入り、オリンピックを理由にすべてのはしごを外されたような状態で、今回私はブラジルに来ました。

政府が謝罪を受け入れるということは、次に自分たちと同じような被害者が出そうな時、民族とか宗教とかに関して「お前たちは違う」と排除の運動が起きた時に、一番初めに反対の声をあげる義務と責任が生じることを意味します。自分も映画を通して今回の件に深く関わったので、そういう覚悟を持って次からやらなければならないと強く思っています。


◎ブラジルでの上映に関して

「オキナワ サントス」が完成後、沖縄県人会が何度もブラジル国内で上映会を開き、多数の人々に観てもらいました。ほとんどの人が映画を観て初めて事件のことを知ったようでした。映画を観た後、事件に関して初めて話し始めた生存者の方々も何名もいたことに驚きました。今回の滞在中に行われたサンヴィセンテの上映会でも「なぜ自分の家族が戦争中にサンヴィセンテから内陸に移って、戦後にまた戻ってきたのかを初めて知った」と、ある女性が泣きながら語ってくれました。作品の完成後、映画で証言してくれた方が8人亡くなりましたが、ブラジル人の映画製作者は「この映画は前から観てみたいと思っていた。実際には亡くなっている人もその人が映画の中に現れた時、初めて観る人にとってその人は生きて語りかけてくれるんだ」と興味深いコメントをしました。今後、日系人だけでなくブラジル人にも観てもらう機会を増やせたらと思っています。


◎謝罪報道に関して

今回のブラジル政府の謝罪審議は日本の大手メディアも大きく取り上げました。謝罪要求に日本の政府は関わっておらず、審議会の場にも政府関係者が一人も出席していないことを記事にもせず、表面的なお祭り記事になってしまいました。今回の件はブラジル沖縄県人会の人たちが前に出るべきだと思い、私は前に出ませんした。ただ大手メディアの記事の中で映画「オキナワ サントス」に関しては一言も触れていません。映画がまた黙殺されたようなが気がしました。子供が学校で無関係な子からも無視されるように、今回は自分の作品がなぜかメディアスクラムから漏れて日本社会から無視されたように感じました。ただこれは今回だけではありません。日本で2021年に劇場公開された時も東京オリンピック開催と重なり、メディアでは文化面でも社会面でも大きく取り上げられませんでした。こんなに悔しいことはありません。このことは一生根に持つと思いますが、逆に言えば、ガッツをもらいました。「サントス事件」と映画の撮影に関しては書籍としてまとめるつもりです。

サンパウロ市内で撮影中の松林監督


◎今後の活動に関して

基本的に誰でもできそうな商業的な企画のオファーを断ったこともあります。太平洋戦争が終わった後も日本に帰らずタイ、ビルマに残った未帰還兵や、東日本大震災後の原子力災害で被災し20キロ圏内に取り残された福島県南相馬市の人々等、世の中にあまり注目されない人や普通の人がやりたがらないことを掘り起こすことを続けてきましたが、今後もそれは変わりません。また、戦争と移民が自分にとって大きなテーマとなっています。歴史や移民のことを掘り下げていると必ずどこかで戦争にぶつかるので、それに向き合わねばなりません。次回作では、沖縄にルーツを持つ日系人に関するドキュメンタリーで、沖縄と日本との関わりを戦後から現在、また太平洋戦争より遥かにさかのぼって深く掘り下げる予定なので楽しみにしてください。

※松林要樹監督の『オキナワ サントス』と『花と兵隊』は日本のアマゾンプライムビデオで視聴可能です。


松林要樹(まつばやしようじゅ)
映画監督。1979年福岡県生まれ。現在、沖縄在住。

<監督作品>
『花と兵隊』(2009年)
戦後もタイ・ビルマ国境付近に留まった6人の未帰還兵を追った。

『311』(2011年 森達也、綿井健陽、安岡卓治と共同監督)
東日本大震災発生から2週間後の被災地の様子と、惨状を目の当たりにした4人の映像作家の姿を描く。

『相馬看花 第一部 奪われた土地の記憶』(2011年)
東日本大震災以降、津波と放射能汚染と強制退去で様変わりした福島県南相馬市の人々の姿を捉えた。

『祭の馬』(2013年)
福島で奇跡的に津波から生還しながらも放射能汚染のレッテルを貼られた牡馬の数奇な運命を描く。

『Reflection』(2015年)
世界17カ都市を旅しながら反射する世界を撮った詩的作品。

『オキナワ サントス』(2021年)

著書に「ぼくと『未帰還兵』との2年8カ月」(同時代社)、「馬喰」(河出書房新 社)など。

月刊ピンドラーマ2024年9月号表紙

#海外生活 #海外 #サントス #沖縄
#ブラジル #映画 #サンパウロ
#月刊ピンドラーマ #ピンドラーマ  
#松林要樹 #ドキュメンタリー映画
#移民 #政府謝罪

いいなと思ったら応援しよう!