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「日本での生活設計」 黒酢二郎の回想録  Valeu, Brasil!(第12回) 月刊ピンドラーマ2024年10月号

前回はブラジルを去って日本に帰る決断をした経緯についてお話ししました。初めてブラジルにやってきた20代の頃は世間知らずで几帳面かつせっかちだった私も、Cara de pau(厚かましい、ずうずうしい、恥知らず)を座右の銘として暮らしてきた影響で、見事に厚顔無恥なおやじとなり、自身の数々の失敗談さえもピアーダにして笑い飛ばす日常を送っています。友人たちからは、ブラジルの自由で気ままな環境に慣れた人間が、日本での息苦しい環境に再び適応できるか甚だ疑問だと言われており、果たして本当に大丈夫なのかと本人も大いに懸念しているのですが、 日本での生活設計について目論んでいることをお話することにしましょう。

年金を貰える年齢には未だ達しておらず、そもそも年金だけで十分な暮らしはできないので、老後破産を回避すべく細々とアルバイトをしながら何とか蓄えを増やし、働けなくなるまで続けた後は、その蓄えを取り崩しながら生き延びていくことになります。年金の受給資格は、ブラジルでは保険料払込み期間が15年以上、日本では10年以上なので、幸いにして両国で条件をクリアしており、「ねんきん定期便」や「MeuINSS」アプリの情報などから、年金の繰上げ受給の可能性も含めて皮算用を開始したところです。

社会との接点を維持せずに刺激の少ない日々を送っていると早く認知症になってしまいそうなので、家の外で働くことは社会における自分の居場所作りに役立つばかりか、身体のみならず精神の健康にも良い影響をもたらしてくれるでしょう。日本は深刻な人手不足に直面しており、アルバイト求人のマッチングをする面白いアプリがあるようです。各地の旅館、ホテル、キャンプ場、農園、水産加工場などの短期アルバイト募集と、それらの地域で滞在型の旅がしたい人を繋ぐサービスで、応募者には若者やシニア世代が多いそうです。交通費や食費は自己負担ですが、アルバイト料がもらえる上、宿泊場所は基本的に受け入れ先が用意してくれるというもので、昔の出稼ぎが人生100年時代に相応しい新たな働き方や旅のかたちとして進化して再登場したと言えるでしょう。決して贅沢な生活は望んでいませんが、日々の暮らしにストレスを感じない程度に節約しながら、たまにはプチ贅沢をするというのが理想です。もちろん、2年に一度くらいは子どもたちの住むブラジルを訪問したいと思っています。そう遠くない将来に孫ができるかも知れませんし。

「フーテンの寅」こと車寅次郎は皆さんもご存じでしょうか。1969年(昭和44年)の第1作公開から50周年に当たる2019年(令和元年)までシリーズで全50作を数えた国民的映画『男はつらいよ』の主人公です。「寅次郎心の旅路」ではオーストリアのウィーンが舞台になりましたが、別の作品でもしブラジルがロケ地に選ばれていたら、さぞ心打たれる仕上がりになっていたことでしょう。

場所や時間に縛られず、風の吹くまま気の向くままに旅に出ては人情喜劇を繰り広げ、しばらくするとふらっと葛飾柴又で団子屋を営む実家に帰って来る寅さんの情熱的かつちゃらんぽらんな出会いと別れのライフスタイル。その生き様に秘かなる憧れを感じている方も多いのではないでしょうか?私も実家に四六時中いると高齢の両親の邪魔になりそうなので、寅さんのようにたまに実家に戻ってくるようにすれば、お互いにとってちょうど良い距離感が保てそうな気がします。

また2025年には、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマで大阪・関西万博が開催されます。海外パビリオンの建設が遅れていると報道されていますが、 あわよくばブラジルやラテンアメリカ諸国のパビリオンでアルバイトできれば幸いと考えています。読者の皆様の中に万博関係者がおられましたら、本誌編集部まで是非ご一報願います。コネを繋いで下さると幸いです(笑)。

筋書き通りにいかないのが人生の常ですが、勝手気ままに夢を描いたり、妄想する自由があるのもこれまた人生です。あらゆる困難な局面においても、その打開に向けて楽観的に行動するというブラジルの人々から得た生きる知恵を日本でも活かしたいと思っています。本誌に「カメロー万歳!」を連載して大好評を得ておられるユーチューバーの「ブラジル露天商しらすたろう」こと白洲太郎氏にあやかり、黒酢二郎というペンネームをつけさせていただきました。長時間じっくりと発酵させ、深い琥珀色をして風味豊かな黒酢のように、そして「ジロリアン」と呼ばれる熱狂的なファンのいるラーメン二郎のように、との願いを込めて執筆させていただきましたが、今回で黒酢劇場もクローズ(閉幕)となります。今まで辛抱しつつ黒酢二郎にお付き合い下さった皆様に心から御礼申し上げます。誠に有難うございました。また逢う日まで、逢える時まで。

Valeu、ブラジル!さらば南十字星。サウダージ。


黒酢二郎(くろず・じろう)
前半11年間は駐在員として、後半13年間は現地社員として、通算24年間のブラジル暮らし。その中間の8年間はアフリカ、ヨーロッパで生活したため、ちょうど日本の「失われた30年」を国外で過ごし、近々日本に帰国予定。今までの人生は多くの幸運に恵まれたと思い込んでいる能天気なアラ還。

月刊ピンドラーマ2024年10月号表紙

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