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「爆発音」 黒酢二郎の回想録 Valeu, Brasil!(第4回) 月刊ピンドラーマ2023年11月号
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前回はブラジル赴任が決まった経緯や赴任準備までをお話しました。今回は、非常に長く感じられた日本からのフライトを終え、ワクワク、ハラハラ、ドキドキの心持ちでサンパウロのグアルーリョス空港に到着してからのお話です。到着前は熱帯のジャングルや野生動物を想像していましたが、着陸間際に機上から見下ろしたサンパウロは大都会。密林のジャングルではなく、コンクリートのジャングルでした。空港では先輩駐在員がお迎えして下さり、車で市街に向かいました。その日はどんよりとした曇り空だったこともあり、古ぼけて薄汚れた灰色の街というのがサンパウロの第一印象です。国旗の緑、黄、青、白という鮮やかやイメージとは異なり、そこに掲げられているOrdem e Progresso(秩序と進歩)という言葉からも程遠いと感じられました。
オフィスから徒歩15分程度の場所に会社がフラット(中長期滞在用アパート)を手配してくれていたので、早速チェックイン。約3か月間そこに滞在し、ある程度生活に慣れてから、自分で別のアパートを探して賃貸契約するという段取りでした。フラットに到着したのは午前中だったので、好奇心にかられて午後から早速周辺を歩いてみました。散歩を始めて暫くしたころ、何の前触れもなく至近距離でパーンという大きな音がしたため、慌てて走って逃げるはめとなりました。治安が悪いとは聞いていましたが、まさか初日からピストルの洗礼を受けるとは思ってもいませんでした。冷や汗をぬぐいつつ逃げた場所から周囲の様子をうかがうと、誰も慌てて逃げ出したりしていないことに気づいたのです。地元民は皆肝が据わっているのか、はたまた諦めの境地に達しているのか?その後もこの破裂音に出くわすうちに、その音の正体が判明しました。今でも時々見かけますが、当時はフスカ(フォルクスワーゲン・ビートル)が沢山走っており、私が聞いたのはフスカの空冷エンジンが発した爆発音だったのです。サンパウロ到着初日は恐る恐る歩いていたので、てっきりピストルの音だと勘違いしたわけです。
到着翌日からは早速サンパウロでの仕事が始まりました。先輩駐在員にオフィスの皆さんを紹介してもらったものの、コミュニケーションがうまくできません。英語が通じるだろうとたかを括っていたのが大間違いだったとそこで気づいたわけです。さらに苦痛だったのが、会議がポルトガル語で行われていたことでした。会議の内容は全く理解できません。日本で数か月間ポルトガル語のレッスンをしていたのですが、魅力的な若いブラジル人女性の先生と仲良くなるために通っていただけなので、ポルトガル語自体は身に付いていなかったのです。後悔先に立たず。
その日以降、一日も早く仕事上のコミュニケーションができるよう、昼間の会議の時間はひたすら眠気に耐え、終業後は自宅のテレビでノベラと呼ばれるドラマ(ソープ・オペラ)を見てポルトガル語に馴染む努力をしたり、カラオケバーなどで綺麗なお姉さん方を相手にポルトガル語の特訓に励んだのでした。高い授業料を払った甲斐あってか、数か月後には会議の内容も少しずつ理解できるようになってきました。ちなみに私のポルトゲースはヨルトゲースと呼ばれ、血のにじむような夜間の学習により身に付けたものです。初期のうちに言語習得に熱心に取り組んで良かったと思っています。でも一体どこに血がにじんでいたのか、何に精を出したのかは聞かずにそっとしておいて下さいね。
(続く)
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黒酢二郎(くろず・じろう)
前半11年間は駐在員として、後半13年間は現地社員として、通算24年間のブラジル暮らし。その中間の8年間はアフリカ、ヨーロッパで生活したため、ちょうど日本の「失われた30年」を国外で過ごし、近々日本に帰国予定。今までの人生は多くの幸運に恵まれたと思い込んでいる能天気なアラ還。
月刊ピンドラーマ2023年11月号表紙
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