中国が目指す自給自足経済の困難さ
近年、中国政府は「自給自足経済」を目指す方針を打ち出しています。海外依存から脱却して自給を目指すのはよいことにも思えますが、中国政府の狙いはそれだけではないようです。ハイテク化が進む中国の養鶏場を取材した、エコノミストの記事を見てみましょう。
「 "ハイテク養鶏" は、自給自足がいかに困難かを示すケーススタディだ」
「High-tech chickens are a case study of why self-reliance is so hard」
(英エコノミスト 2020年10月31日号 "Chicken and egg"より。以下引用同じ)
中国では毎年1600万羽の種鶏を海外から輸入し、その種鶏から鶏肉になる鶏を作っています。
「合計すると、中国は第3世代に当たる"白羽鶏" のひよこを年間1600万羽輸入している。」
"In all, China imports 1.6m third-generation white-feather chicks a year.」
羽毛が白い外来種の鶏は長年の品種改良の結果、中国の固有種である "黄羽鶏" の2倍の速度で成長し、体重も2倍になり、1羽から2.5キロもの肉がとれるそう。
輸入するのは、欧米にいる純血種から数えて3世代目にあたる鶏で、そこから第4世代の鶏を作り、さらにこれを繁殖させて第5世代が鶏肉になります。大量に生産される第5世代の鶏の肉は、主にファストフード店や学校給食、スーパーマーケットなどで消費されます。一方、白い鶏よりも味がよいとされる "黄羽鶏" は、レストランで使用されたり、市場で丸鶏として売られたりします。
しかし種鶏を輸入に頼っていると、鳥インフルエンザなどの疫病が流行ったり、また貿易摩擦のような問題が起きたりすると、海外からの供給がストップするリスクがあります。
中国の養鶏家は長年にわたって国内産の種鶏を生産する努力を続けてきましたが、ここへきて中国政府も「自給」を奨励するようになってきました。しかしその言葉の裏には、なんだか下心が透けて見えるような……。
「海外の大企業は、第2世代の種鶏を中国によこせという当局からの要請に反発している。」
"Big foreign firms have resisted appeals from officials to send second-generation stock to China. "
第2世代の鶏を供給する拠点は、疫病などの安全策としてアメリカ、イギリス、ニュージーランド、ブラジルなどに散在し、そこから世界中に養鶏用の鶏を輸出しています。第2世代をよこせということは、第4世代から繁殖させるよりも鶏の質がよくなるからというだけでなく、中国も世界の供給国に加わりたいという思惑が透けて見えるような気がします。
ここまで世界がグローバル化すると、鶏肉に限らず、一国だけですべてをまかなうことはできません。食糧など重要な物資を自給することは安全保障の面からも重要ですが、輸入に頼る割合が大きくなっている今、世界各国と協調して供給がとだえるリスクを避けることが当面は重要です。
「グローバリゼーション政策は、一方がケンカ腰だとやりづらくなる。」
”The politics of globalisation get tricky when one side feels it is being readied for the pot.”
「ready for the pot」というのは、「料理する準備ができた」という意味ですが、転じて「やっつけてやるぞ」という意味合いだそうです。日本語で言えば「煮て食ってやるぞ」といったところでしょうか。辞書に載っていない気がします。
グローバル化が進めば進むほど、世界は各国との協調を大切にして、平和をめざさないといけないですね。