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半世紀前に逆戻り!? 中央集権化を進めるイギリス保守党の政治改革

今回取り上げるのはイギリスの政治についての記事です。イギリスの政治体制は日本とは大きく違うので、背景知識がないと読み解くのがなかなか難しいのですが、英エコノミスト2020年11月21日号の記事、 "Remaking the state" を読んで学んだことについて書いてみます。

1976年頃まで、イギリスの政治は比較的中央集権的でした。首相や大臣、高級官僚といったexecutive(行政のトップ、執政部門)の力が大きく、「選挙による独裁」とまで言われました。

1990年代にこの状態を改革したのがリベラル派のトニー・ブレア首相で、イギリスを構成するスコットランド、ウェールズ、北アイルランドといった国々への権限の移譲(devolve)、最高裁判所の設立、貴族院改革、イングランド銀行に対する金利調整権の付与などを行いました。その結果、イングランドの行政トップが握っていた絶大な権力は縮小されました。

ところが現在は、時代を逆行するような事態が進行中のようです。

「今は、首相官邸があるダウニング街10番地内外の急進派による保守党の反革命が進行中だ。行政トップはイギリス国民の意思の代表者なのだから、その権力を制限するのは民主主義に口輪をはめることだと信じている。そして、政府のやることはあまりにも遅すぎると不平を漏らしている。」
"Now a Conservative counter-revolution is under way, driven by radicals in and around Number 10. They believe that the executive is the expression of the will of the British people, so to limit its power is to muzzle democracy. And they complain that government is far too slow. "(英エコノミスト2020年11月21日号の記事、 "Remaking the state"より。以下引用同じ )

このような急進派の言い分に対し、エコノミスト誌はNOを突きつけています。 

「(中略)第二に、リベラルな民主主義は多数決主義ではない。
"Second, liberal democracy is not majoritarianism. "

これは大事なことですね。

ボリス・ジョンソン首相が率いる現在の内閣は、イギリスのEU離脱賛成派の人々で構成されています。国民投票実施前は世論が賛成と反対の真っ二つに割れていましたが、結局は投票で勝ったほう、つまり多数決で勝ったほうが我が物顔にふるまう政権になってしまいました。でも、真の民主主義とはそういうものではないのです。

「リベラルな民主主義とは、個人と少数派の人々の権利を守るとともによい統治を促進するために作られた執政部門の権力に対して、抑制と均衡のシステムを働かせることを含むものだ。」
"It includes checks and balances on executive power designed both to protect the rights of individuals and minorities, and to promote good governance."

checks and balances とは、政府の各部門が互いに権力を制限して均衡を保つこと。つまり行政権(内閣)、立法権(国会)、司法権(裁判所)の三権分立を保つという、民主主義政治の基本的な概念のことですね。

イギリスといえば、新型コロナウイルスの感染状況がアメリカに次ぐ最悪の事態になってしまいました。コロナ対策についても、地方自治体に権限を与えたほうがうまくいくのではないかとエコノミスト誌は述べています。

「新型コロナウイルスの世界的流行にうまく対処したおかげで大いに支持を得た地方自治体の長は、それに見合った財源と責任を与えられてしかるべきだ。」
"City mayors have had a good pandemic: their popular standing ought to be matched by resources and responsibility." 

日本でも、コロナの感染状況については、医療崩壊が起きそうな都市もあればそれほど感染者数が多くない都市もありますから、自治体ごとに対策をしたほうがうまく対処できそうですよね。

「執政部門と憲政の機能をこのように変化(訳注:地方への権限委譲を進める)させれば、イギリスの民主主義と、政府がものごとを成し遂げる能力の両方が強化されるだろう。半世紀前の選挙による独裁制を復興させていたのでは、決してそうはならない。」
"These changes to the way the executive and the constitution work would both strengthen British democracy and improve government’s ability to c. Restoring the elective dictatorship of half a century ago would not."

「constitution」とありますが、イギリスには、アメリカや日本のような成文化された憲法はありません。したがってイギリスでconstitustionといえば不文憲法で、歴史と判例に基づく法体系という意味になります。ここでは「憲政」と訳してみました。

 EU離脱の是非を国民投票にゆだねてしまったことをきっかけに、多数決主義に陥ってしまったイギリス政治。当面は迷走状態が続きそうです。

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