弱まるアメリカの抑止力 ~世界は台湾の民主主義を守れるか?~
2400万人が暮らす台湾。日本にとって大変親しみのある国です。旅行したことのある方も多いでしょう。
今年に入って中国国防相は、「台湾が独立するというならそれは戦争を意味する」と強硬な発言をしました。昨年の香港の状況を見ても、中国が台湾を中国共産党の支配下に置こうとすることが懸念されます。英エコノミスト誌によると、
「この71年間、自治区としての台湾の存亡は、中国の武力侵略に対するアメリカの抑止力にかかっていた。実のところ台湾は、中国が辛抱強く戦争を避ける別の方策をとろうとしているおかげで息を永らえているともいえる。」
"For 71 years Taiwan’s existence as a self-ruled island has relied on deterrence of Chinese aggression by America. True, Taiwan also benefited from a degree of Chinese patience, as China tried other gambits that might avoid war."(英エコノミスト 2021年2月20日号 "How to kill a democacy"より。以下引用同じ)
さらに、
「そもそも中国は、アメリカからの救世軍がやって来るまで台湾の軍隊が持ちこたえることを恐れて自制していたのだ。」
"At root, China stayed its hand for fear that Taiwanese troops would hold it off until American rescuers arrived."
軍事で世界のすべてが決まっているとは個人的には思いたくないし、中国が台湾を武力侵略しない背景には経済的、社会的、そして国際的なさまざまな理由があると思いますが、こういう一面もまた事実なのでしょう。
中国と台湾の対立について、アメリカは台湾の自治を守る立場を表明しつつも、基本的に中立の姿勢は崩していません。台湾に明確に肩入れすると、本当に戦争になるおそれがありますからね。
しかし、中国の経済力と物理的な軍事力が強大になった近年は、アメリカの抑止力がどこまで通用するかわからなくなってきました。
アメリカのある中台安全保障についての専門家は、
「アメリカと日本などの同盟国は、もし台湾を攻撃したら、中国をドルベースの財政制度と貿易制度から閉め出す、という立場を明確にしておく必要がある。」
"America, and allies such as Japan, should make clear that China will be expelled from dollar-based financial and trading systems if it attacks Taiwan. "
と、国際社会は中国に対して曖昧な態度をとるのをやめて、厳しい姿勢で臨む必要があると語っています。
愛国主義的な政治を行っている習近平国家主席にとって、台湾を中国共産党の支配下に置くことは、毛沢東の共産党v.s.台湾に敗走した蒋介石の国民党の中国内戦にケリをつけることでもあり、その「国家的使命」を国民に対しても強調しています。
「多くの中国国民にとって、台湾を取り戻すことは神聖な国家的使命というだけではない。それがかなうことは、アメリカの覇権が終わりを告げることも意味する。中国がいついかなるときも、許容可能なコストでこの使命を果たせると信じているなら、それは起こりうることなのだ。」
"To many Chinese, Taiwan’s recovery is not just a sacred national mission. Its fulfilment would also signal that American global leadership is coming to an end. If China ever believes it can complete the task at a bearable cost, it will act."
去年は、アメリカ大統領選を巡ってアメリカが混乱していた隙をついて、中国は香港市民の自由を奪う暴挙に出ました。もし、自分とその取り巻きの利益しか考えないトランプ氏が再選されていたら、台湾も危なかったかもしれません。やっとまともな人が大統領になったので、台湾も当分は大丈夫でしょう。
ほんと、首の皮一枚で世界はなんとか救われた……。これ、大げさじゃないですよ。そう認識している人はどのくらいいるのでしょうね。