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英新財務省リシ・スナックのもう一つの顔はまさかのサッチャリズム!?

インド系移民の若きリシ・スナック氏がイギリスの新財務省となって注目されています。アメリカの保守党がほぼ白人ばかりなのとは対照的に、イギリスの保守党はバラエティに富んだ人種の人々で構成されています。

スナック氏はEU離脱賛成派で、かつソーシャル・リベラル(社会自由主義)派と見られていますが、実は別の一面があるとか? まずは表の顔から。

「1つめは、政治的な時流に乗る現実主義者としての一面だ。先日辞任した首席顧問のドミニク・カミングスは経済政策を首相の管理下に置く計画を立てたが、その計画をめぐって前財務相のサジド・ジャヴィド氏がボリス・ジョンソン首相と対立したことがきっかけでスナック氏は財務大臣の職を得た。」
"The first identity is that of a pragmatist who tacks to the political winds. He got the job of chancellor when his predecessor, Sajid Javid, fell out with Boris Johnson over plans by the prime minister's now-departed chief adviser, Dominic Cummings, for Number 10 to seize control of economic policy."
(英エコノミスト 2020年11月28日号 "Bagehot: Sunak's secret self"より。以下引用同じ)

英語の原文に出てくる「Number 10」はダウニング街10番地のことで、そこには首相官邸があります。そして、その隣の11番地は財務大臣の家です。財務大臣は首相に次ぐナンバー2の地位ということですね。経済政策を首相が決めるのか、財務大臣が決めるか、そこには権力のせめぎ合いがありそうですね。

「11月25日にいつものように落ち着き払った態度で発表したスペンディング・レビュー(歳出計画案)は、いかにも現実主義者のスナック氏のものらしく、ケインズ理論のモットーである "雇用最優先" を標榜し、驚くべき内容の財政出動の公約リストをすらすらと読みあげた。」
"The spending review which he delivered with his usual aplomb on November 25th was designed by Rishi-the-pragmatist, whose Keynesian mantra is "we're prioritising jobs" and who reeled off a mind-boggling list of spending commitments."

今年は多くの国でコロナ対策費として大規模な財政支出が必要になりました。スナック氏も英国の財務大臣としてすでにこれを実施してきましたが、さらに公共投資の増加、病院の建設、警察官の数を増やすことなどを公約しました。

社会主義、自由主義といった特定の主義に固執することなく現実的な施策を行ってきたスナック氏ですが、ゴールドマン・サックスで働き、シリコンバレーのスタンフォード大学で学んだ経歴のある氏は、実は新自由主義の信奉者であり、サッチャリズム支持者の一面もあるとか。

「スナック氏は、公共部門の大部分の賃金を凍結し、対外援助をGDPの0.7%から0.5%に削減しただけではない(サッチャーならもろ手を挙げて賛成したことだろう)。~(中略)~ 経済が回復するにつれて、サッチャー主義のリシはさらに強気になっていきそうだ。」
"Mr Sunak not only froze most public-sector wages and reduced foreign aid from 0.7% of GDP to 0.5% (which would fave delighted Thatcher). (中略)As the economy recovers, the Thatcherite Rishi is likely to become more assertive."

イギリスでは80年代のサッチャリズム以降は新自由主義の嵐が吹き荒れて、労働者に厳しく自己責任が問われる社会に突入し、経済格差が開いてしまいました。

今はコロナ禍に対抗するための経済支援が手厚く、英米ではロックダウンで働けなくても国からお金がもらえますが、コロナ禍が去って経済が回復したら、また自己責任の社会に戻っていくのでしょうか。今後の経済政策がどこに向かっていくか注目ですね。

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