薬を飲んでいなかったおばあちゃん
処方された薬をのまない。
その行動は、医者や他の医療者からの信頼を大幅に削ぐ行為です。なのですが。
先日診察したおばあちゃんがちょっとおもしろかったのでご紹介。
「先生この患者さんですけど、お薬がほしいっていらっしゃってます〜」と、その日もお薬目的の患者さんがいらした。みてみると高血圧の治療薬。特に診察を希望しているようでもなく、自宅での血圧も測れているかよくわからない。私は外来で評価せず漫然と同じ薬を処方するスタイルではないので、患者ファイルとカルテをポチポチみながらそんなことを考えていると…
…あれ?あれれ?
前回の処方は2ヶ月分出されている…
日付をみると…5ヶ月前に!そして、予約していた日には来院していない。。
そんなところまで調べ上げて呼び込む前に内容整理。そばについていたスタッフさんも、あちゃーといった表情で「どうしようもないですね〜ほんっと」とぼやいている。
普通に処方通り内服をしていれば、3ヶ月前にはお薬がなくなっているはずの人。こういう人は呼び込み前の医療スタッフからの印象が悪くなってしまいがち。
呼び込んで聞いてみた。眼鏡をかけた、おっとりな雰囲気のおばあちゃん。山本さんといたしましょう。
「山本さん、血圧のおくすり、もうなくなっていませんか?」「ちょうどなくなったので来ました」「ちょうどって、前に診察した時にたくさん余っていたんですか?(3ヶ月分も?)」「余っていなかったです」「お薬は毎日飲んでいたんですね?◯月◯日(3ヶ月前)の外来にいらしてないから、もうだいぶ前にお薬がなくなっていると思うんですけど…」「いぃえぇ、ありましたよ??毎日飲んでいました」
んんんんん??噛み合わない…!
実際はもうちょっとやりとりが堂々巡りしていて長いです。
「あのねぇ山本さん、これちょっとみてね」といいながらカルテを供覧。「山本さんが最後に受診した日がこの日なんです。で、その時に2ヶ月お薬をだしました。でもその2ヶ月後の◯月◯日には◯◯さん病院にいらっしゃらなかったんです。で、今日いらしたけど、これでは3ヶ月分くらいお薬がないはずなんですよ」
山本さんもカルテにガブリ寄り、ふむふむ、と真剣に説明をきいていた。そして、説明し終わったあと、じーっと反応がなく5秒くらいたった。あれ??
山本さんをみると、何か新しい宝物でも発見したかというような、何かに感動したかというような表情で目を丸くして、
「本当ですねええぇ!?」と、おっしゃった。
この人本当にガチで気づいてなかったあぁぁ(笑)
その時の山本さんのなんとも言えない表情と、あらまあ〜びっくりといった声のおっとり感が、山本さんの生きてきた人生を垣間見られたようで、勝手にほっこりした。
山本さん本人はお薬を飲み続けていると思っていたようだ。その理由は、他の診療科やクリニックでもお薬をもらっていて、そのお薬をきちんと続けていたら高血圧の薬がいつの間にかなくなっているのに気がついていなかったよう。
そして、見た目は若いんだけれど実は90歳一人暮らしのおばあちゃん。お元気なかたで、介護福祉サービスはなにもうけていませんでした。
いろんなところからもらうとお薬の管理が難しいかも、と2人で共有し、今後の生活のお手伝いに関して話し合いましょう、とソーシャルワーカーさんに連絡をとりました。
終わったあとスタッフさんと一緒に、最初はどんな人かと思ったけどなんかすごいほっこりしましたねー!と楽しい外来をすることができましたとさ。
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