レンタカー旅、イン、マイマイン ~棚田篇~
室生寺を参拝し終えて11時前。この日の最終目的地は、三重県は津。つまり、そこにさえたどり着ければ、どこにどう寄り道しようがOK。
友人は2択を用意してくれていた。①少しハイクして滝を見に行くか ②棚田を見に行くか
②になった。決定権を委ねてくれたときに、実は前日も(こちらは仕事で)奈良は東大寺に行っていたのだが、昼以降の炎暑ぶりったらそれはもう大変だったのだ。①の滝も確かに魅力的だったが、そんな厳暑の下をしっかり運動するのは、先の長い一泊二日を見越したときに危険か、と。僕の口は全力でそう発していた。友人は快く首肯した。ただ、「約3時間のドライブ、なんの潰しもきかないと思う」。ひたすら雑談するのだ。3時間の車内トーク上等である。そして、このペースで旅行記を書いていたらきっといつまで経っても完結しない。巻けるところで巻く気概はいつも忘れずにいる。
ランチは「絶対にここで食べよう」とは決めていない。よく言えば一期一会。悪く表現する気は毛頭ない。道中いいところ見つけたら入ろう、ということにした。ただ、と友人。「しばらくずっとこんな感じの道(山道のような雰囲気)が続くっぽい」。このタームは珍しく僕が運転手。ナビは確かに言った。「53km道なりです」。
これぞ僥倖、というランチだった。工事の関係による交通整理に従って一時停止したとき、右手のなんてことのない地に「ランチ」の幟(のぼり)がはためいていた。「ここやな!」と二人の声が揃う。うっかり発進していた車をすぐにUターンし、その家庭的な食事処に入った。
「ランチは1種類しかないけどいいですか~?」と店の人。むろん、である。入口に「とんかつ定食」とあったのを僕は見ていた。500円。どんなだろう、と興味深く待っていたら、大変当たりの昼食になった。
実家のとんかつを思い出すとんかつ、たらこを入れたまん丸じゃがいもコロッケ、冷たいかぼちゃのポタージュ、良い意味で土の味が香るサラダ。嬉しく、そして一等美味しかったのが、白飯に載って供されたきゅうりのぬか漬け。とても美味しく浸かっていて、これだけでごはんが進む進む。あと忘れてはならないのが、メロンもしっかり大きく一切れ付いていた。最初「瓜かしら」と思ったが、「すわメロン!」。実はそれほど好きではないメロンなのだが、たぶん今までで一番美味しく感じられたのだった。
ほぼ100%、二度と来ることは叶わないだろう。ここでこの日のランチができてよかった。NBA井戸端会議ではクルーズ船から船上生配信していた。
道中、色々な話をした。必然、くだらない話が主として、シリアスな話にもなる。こういうシチュエーションでもなければ、ふだんの居酒屋ではしないもの。
友人は最近、映画で「私のはなし 部落のはなし」を観たと言った。自分も、タイトルくらいは知っていた。それで差別の話とか、宗教の話とか、ちょっとだけ政治の話とか。お互い、そういったことに心をすり減らすことなくここまで生きてきたなぁと。それが良かったとかそういうことではない。「知りませんごめんなさい」で済ませて生きていくのはだめだよね、というような話もしたと思う。
棚田を目指している。時期も時期だから、間違いなく青々とした田が見られるのだろう。我々も馬鹿ではない。かしこだと信じている。つまり、そこに至るまでに否が応でも目に飛び込んでくる「Not 棚田,but 田んぼ」をなるべく見ないようにしよう。シンプルな田んぼでさえ、田園地帯・嘘みたいに青い空・ソフトクリームみたいな入道雲たちと共演したら見事に美しいに違いないのだ。「一番の感動を、棚田にて」と心を揃える。
丸山千枚棚田、というらしい。ロケーションが秀逸である。青い空、白い雲、胸を張る稲の緑。目の当たりにすると、自然はそれぞれ「一色」ではないことがよく分かる。つまり、青も白も緑も、それぞれグラデーション。山を照らす陽光、雲の機嫌で斜面がさぁっと影になり、ア、と思ったらその直後にぽつぽつとわずかに天気雨が降った。
もう一つの見ごたえである巨岩もしっかりと目に焼き付けて、摩訶不思議な案山子たちに手を振って棚田を後にした。
18時過ぎ、目的地の津に到着。ホテルにチェックインし、「5分後、ロビーな」と約束。座ってしまうともう動けないこと請け合い。歩いてすぐの、友人が目星をつけてくれていた居酒屋へ。清涼飲料水のようにノドに美味しいレモンサワーを流し込む。すぐに酔っぱらうと見た。
三重の旨い刺し身に気を良くして日本酒もいったところで、したたかに酔っぱらう。おまけに、ナッツをこじらせて出始めたしゃっくりが止まらない。
楽しく呑んで食べて、本当に眠かったから、そう間違いなく本当に眠かった僕はホテルへ。友人は道中見つけたラーメン屋でひとすすりして来ると言って、翌朝9時ロビー集合を確認し合って別れた。
ホテルの部屋はそれぞれ別部屋が僕たちの基本。旅先で好きなのは、ご当地ラジオを聴くことで、これはあまり賛同を得られないのだが構わない。荷物を整理しながら、湯船に湯をためながら、(良い意味で)誰やねんの何やねんな番組を聞くでもなく聞く。それ終わりで始まった次の番組は、僕が毎週聞いている時間帯ならば翌日の昼下がりオンエアーの、多数の局をネットしている番組だった。こういうのも一興である。
しっかり入浴して、翌日の準備も万端、疲労困憊も極まったことから、さあ眠りへ! となったのだが、結局、結局! 3時過ぎまでまったく眠れず、6時過ぎに完全に目が覚めてしまうという悲劇。体は平気なのだが、メンタルがやられてしまう。近ごろ、とんと満足な睡眠を得られていないわけで、大きな悩みの種なのである。
果たして一日目の後半でまた想定外の紙数を費やしてしまった。2日目の記録に、たぶん、続きます。
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