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ぼくと妻の、裏側の裏側は表なのでもう一回くらい裏返した話をしよう。

ぼくの妻は、成人向けの漫画を描いている「漫画家」だ。

冒頭でいきなり予期しないような裏側に突入してしまい、早くもコンテストの受賞作品の選考から漏れた可能性が高いと思われるけれど、構わず続ける。
考えようによっては正に裏側を語っているのでギリセーフという考え方もできるよね?選考委員さん。

そんなネタバレから始まるぼくの裏側は、すでに表を向いているのかもしれないが、どうせ表を向いてしまっているのならこの際、包み隠すこともなく赤裸々に語ってしまおうと思えてきた。もっとも、最初から隠すべきことなど持ち合わせていないのだけれど。


ぼくは漫画家の妻を応援している。

妻が成人漫画を描いているというのは冒頭に明かしてしまったとおりだ。
そしてこれは妻に内緒にしておいた方がいいかもしれない裏話だけど、ぼくは成人漫画が好みではない

どうもアダルト分野はぼくの性分には合わない。
それは40歳というぼくの年齢によるものではないか?と言われると、「そうではない」とは言い切れないかもしれないが、性に対する興味がないといわけではないので違うのだと思う。


今から約10年前。最初に妻から「こういう漫画を描きたい」と言われた時は、正直戸惑った。大抵の夫なら戸惑うんじゃないかと思う。

でも、当時の記憶がはっきりしているわけではないけれど、妻の申し出に否定はしなかった…と思う。
実際には妻が描きたいという漫画がどういうものかが自分でもあまりイメージできていなかったという部分もあるかもしれない。それよりも、当時は子供が小さくて、育児オンリーの生活になっていた妻がやりたいことを見つけて始めようと思ったことは、ぼくにとっては素直にうれしかった。

最初に妻が「niko」の名前で描き始めたは同人誌。これも彼女からその時初めて聞いた話で、実は以前にも「同人誌なるもの」を描いていた過去があるらしい。別にぼくは結婚前に妻が活動していたことに対して咎めることをするような立場ではないと思っているけれど、妻自身は話すことに少し抵抗があったらしい。

それからの妻はとにかく熱心にマンガを描いていた。
と言っても、まずはそのために購入した通称「板タブ」と呼ばれるペンタブレットの扱いに慣れるところから始めなければいけなかった。

妻が昔にマンガを描いていた時はアナログ(紙にペン)のスタイル。
今はもっぱらデジタルが主流なので、どうせ始めるならとデジタルマンガの制作を目指したというわけ。

彼女が練習で描いたものを少し見せてもらった。

…お世辞にもウマイとは言えない。現代の言葉で表現するなら「お、おう…」である。少しむかし風の言葉で表現するなら「ミミズの這いつくばったような」である。今、街中ではミミズを滅多に見なくなった。せいぜい真夏にどこからともなく現れて干からびてしまっている死骸を見る程度だ。

そんな貧相な線で描き上げられる図柄を見て、当時は本当に彼女が漫画を描くまでに至るとは思えなかった。

でも、彼女は違った。

途中、何度か挫折しそうになって描くことをやめていたこともあったと思う。でも思い出したかのようにペンタブレットを引っ張り出してきてはパソコンの前に座り、黙々と練習していた。
その間にはイラストに関する本や、キャラのモチーフとなるフィギュアなどがパソコンデスクの上に続々と並べられていき、それが彼女の本気度を物語っていた。

ぼくは、妻が連日のように黙々とマンガの練習する姿を黙って見ていた。いつの間にか請求額の増えているクレジットカードの明細書も、涙を流しそうになりながら黙って見ていた。

妻がデジタル漫画の練習を始めてからどれくらいの期間が経っただろうか?
少なくとも半年ほどはひたすら描いていたと思う。

そしてついに、妻が大好きな漫画の二次創作ではあるが、同人誌を描き上げたのである。その出来栄えは、ぼくが夫というアドバンテージを得ているとしても、お世辞抜きに驚いた。現代の言葉で表現するなら「ヤバい!」である。少しむかし風の言葉で表現するなら「超スゴイ!」である。

この時の二次創作マンガで同人イベントに参加し、上々の成果を上げる。後にぼくと共作でオリジナルの同人マンガ作品を制作して参加したイベントで電子漫画の編集者からお声がかかり、晴れてプロデビュー。

プロデビューまでの経緯を、パソコン画面で見るとなんと3行で済ませてしまったことは妻には内緒にしておいた方がいいかもしれない裏話である。


妻のnikoがプロマンガとしてデビューしてから今年で4年目を迎えた。
その間、夫であるぼくはずっと彼女を誰よりも一番近くで見てきた。

ぼくの苦手な成人漫画を描き続けている妻。

でも、不思議とそんな妻に嫌な感情を抱いたことは一度もない。むしろプロット制作などではお手伝いもしてきたくらいだ。

なぜそんな夫婦の関係を続けてこられたのか?

理由は簡単。好きなことに夢中になって、懸命に生きている妻を見るのが好きだからだ。

実は、妻は今年の初めまで漫画家と美容師を兼業してきた。美容師の仕事は主に週末や祝日がメインで、平日は漫画を描くといった生活だった。
だから、土日になると妻は美容室に仕事に出るため、娘は必然的にぼくが面倒を見ることになっていた。

そのおかげで、娘とは小さな頃から二人でいろんなところに遊びに行ったし、二人で近くに泊まりがけでプチ旅行をしたこともある。それも、今ではとてもいい思い出だ。そんな娘も今では中学生。今のところ「お父さんクサイ」と言われたことは一度もない。

妻が美容師だったことを最後にとっておきのネタとして提供した。というわけではなく、単にぼくが入れ込むのを忘れてしまっていたというのは裏話。

妻が美容師をしながらも漫画家を目指していなければ、妻とぼくの人生はどんな風になっていただろう?娘とぼくはどんな関係になっていただろう?

まだまだ成人漫画界でも「しがない漫画家」の一人でしかないnikoだけど、ぼくは彼女のクリエイター人生をずっとそばで見ていたい。
描いた漫画が売れなくて、クレジットカードの請求額だけが増えている月が多くなったとしても、ぼくは涙目で笑っていられる。

だって、懸命に漫画を描き続ける妻の目はずっと輝いているのだから。

ところで、ひっくり返し続けたこの話、いったい表と裏のどちらの話をしているのかな?

#わたしの舞台裏

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