「名前のない女たち」、社会構造
「あなたは、この種の遊びが大ていは病院で終わるっていうことを知らなくてはいけませんよ」
サガン、悲しみよこんにちは p57
※本書を紹介するに衝撃的な引用をします。ご注意ください。
私はオレンジ通信とかいうエロ本を知らなかった。多分、でらべっぴん的な奴だろう。グラビアの隙間記事にしては相当深刻な内容である。
90年ごろからブルセラだとか言われてた、薄っすらとそんな記憶はある。テレクラ円交と言われた2000年から20年後、パパ活とか何とか…今も何も変わらない。いきなり余談だが、「うしろゆびさされ組」という名は多分そういう意味だろう。
ともかく、企画AV女優らのインタビューは生い立ち、動機、生活といった内容は私を悲しませるに十分だったが、筆者も売るためにわざわざ悲惨な女性をピックアップしたというバイアスがあるのは確かだろう。
人はウソを付くときペラペラ喋りだすという。しかし若い女性のペラペラ喋りというのは、そういうハナシではない。ダムが決壊して水が溢れ出すようなどちらかというと危ういニオイがする。
潮吹き。
「(略)自分で潮吹けるようになって、したら潮吹きいっぱいヤラされて、わたしも自分からいっぱい潮吹きやっちゃって、潮吹きって、寝た状態でヤルでしょ、子宮に水が流れ込むらしいのね。普通のコだったら、二日くらいで水が抜けちゃうんだけど、わたし毎日吹いてるやろ。あそこに水が溜まる一方で、子宮がこれ以上いれるなぁぁぁ!って膜張ってな。現場で吹いてたとき、その膜が破れちゃったみたいなんや。ホント痛かった」
(中略)
「痛み止めを飲めば普通に暮らせたんだけど、また違う痛みがしてきたのね。変だな、と思って再検査したのな。そしたら子宮外妊娠してて。可能性としてはゴムに穴が開いてたとか。ビデオ以外ではエッチしてなかったから男優さん以外ありえないのね(略)」
p34~39
はしょったので説明するが、1つは潮吹きを売りにしたという事で繰り返したために子宮の膜が破裂したのだという。
そしてもう1つが、本番しないという中で、敢えて本番をするというパフォーマンスをしたために男優の誰かの子を妊娠し、それが子宮外妊娠だったという2重の苦しみにあったという事だ。彼女は妊娠できない身体となったという。
ハードプレイ。
取り合えず無事に終わった……と彼女が肩の力を抜いて、顔に付着した精液を拭おうとしたとき、監督がドカドカと近づいてきた。お疲れ様……とか、頑張ったね……とか言ってくれるのかと思ったら、男優の名前を呼んでいる。何が起こるのだろう?彼女は一気に不安になった。
呼ばれた男は仁王立ちになって、チンチンを突き出してきた。監督は威圧的に「小便を飲むんだよ……口を開けろ!」と、訳の分からないことを怒鳴っている。突き出されたチンチンから小便が出て、彼女は口で受け止めた。信じられないほど不味い液体が、口の中に充満して、排せつ物の毒薬が全身に広がっていくようで気持ち悪かった。小便をした男は鬼のような目でビンタしてきて、
「貴様、一滴も漏らすんじゃねえぞ!」
p318
女優になる際、一枚の紙を渡されるという。どういうプレイができるかといったアンケートのようなものだ。アナルNG、スカトロNG。。。しかしこんな紙切れ一枚が何の役に立つだろう。暴力行為をするから暴力団と呼ばれるように、こんな業界がまともなコンプライアンスなどあるワケがない。
暴力とレイプ。
酒乱の義父による折檻と虐待は、年を追うごとに熱を帯びていった。成長の早かったエリカは、小学校三年で胸が大きくなり始め、肉体は成長して日々変わっていった。女としての成長は、想像を絶する地獄の幕開けだった。
「性的虐待です。父親は相変わらず働いてなくて、一日中家にいたんですね。兄弟はみんな学校に出ちゃって、母親も仕事に行ってしまう。朝、義父に、『オマエは学校に行くな!』って命令されて、家の中には二人きり。へっへって気味悪く笑って、近寄ってきて『脱げ!』って怒鳴るんですね。脱がないと殴られるんで、言うとおりにするしかなかった。最初はニヤニヤしながら指とか入れてましたね。あと台所にあった棒みたいなものを入れてきて、もちろん痛いじゃないですか?耐えられなくて痛い痛いって叫んでも、嬉しそうに無理やりやってくるんです。一回だけじゃなくて、週に何回もですね。最初の何か月間かは、物でいろいろやってきて、そのうち自分のを入れるようになったんです。痛くて、血ばっかり出てきて、それでも入れようとしてきて……。なかなか入らなくて、それをずーっと続けているうちに入るようになっちゃったんです。完全に処女膜が破れたのは、小学校四年生くらいだったかな。本当に悲惨でした」
p295
家庭に関する問題を抱えた少女はあっけらかんと語りつつも、その内実はどうも妙な事が多いようである。離婚、再婚、誰かの借金など大人ですら手を焼く問題が年端も行かない子供に何ができるだろうか。
こうした女性らはざっくり言うと、4つの動機がある。
1,崩壊家庭
2,モラトリアム、退屈
3,容姿、体型などのコンプレックス
4,曖昧な東京への憧れ
これらは当然グラデーションがあって、これらが複雑に絡まっているとは思う。援交の始まりはかつては電話ボックスだったという。キレイな服が欲しいがカネがない。電話の向こうに買うオヤジがいる。カネがないと分かると電話を切る。これでトレード成立。知識も技術も何も要らず身体1つで簡単にできてしまう。
識字率40%の開発途上国のハナシではない。
学校なんかメンドクサイ、少女らは池袋や新宿というネオンに惹きつけられていく。まるで蛾が火に飛び込んで死ぬように。
「(中略)それで歌舞伎町に1人で行くようになったんです。中学のときからイジメられて寂しくなってくると、歌舞伎町に行くようにしてた。ネオンに囲まれてると、寂しさが紛れてきて、ここが自分の居場所なんだって思えるようになったんです。(略)」
憧れの東京に来たもののお金がなくてはどうしようもない。ツテもコネも無く風呂もない4畳半の部屋でカップラーメンをすする。テレビで見た東京と違う、こんな惨めじゃやりきれない、そんな時に
「スカウトに声をかけられたんです」
スカウトを本書はよいしょしているが、私は蟹江恵三しか思い浮かばない。何の映画だったか思い出せないが。腰を低くしニヤついて、でも金にならないと真顔になる、そんなイメージだ。
現代の女衒である。
女を紹介すると何%かの代金を得る。それで暮らしているのである。
フランス語でヒモの事をmaquereau(マクロ―)という。これはサバの意味である。こういう事を言わせるとフランス人というのはセンスがあるなと思ってしまう。なるほど、ミナミでうろついてるアレは陸に上がったサバに違いない。
「(略)面倒くさかったんだけど仕事探して、キャバクラは夜中までだから面倒くさいなと思って、夜は遊びたいでしょ、だから風俗の早番やって、そのお金を持って、そのまま遊び行くみたいな(笑)。イメクラだったね。最初は抵抗あったんだけど、実際やったら、なんて楽な仕事なんだろうって。変なオジサンのしゃぶるのとか抵抗あったけど、1人目で慣れちゃったし。
最初はよかったんだけど、途中ホント嫌になったときがあってね。店に行かなくなってクビになったのね。(略)」
結局彼女らは最初はなんてことないとデカい口を叩く割にいつしか心が折れる、そんな例が多い、そう感じる。
要するに「別になんてことなくない」のである。
3日でOLの1か月の給料を稼げるというのが、そもそも何故そうなのかというハナシである。
後気づいたのだが、なまじ風俗で稼げるせいで、親や義父の借金を肩代わりするケースだ。彼女らは妙に目標ができたためかハッスルするのである。本当の解決はその拗れた関係を再構築することだ。しかしそれが出来ればどんなに人は苦しますに済むだろう。
余りに長くなったが、最後にこれを紹介しておく。
銀行系のシンクタンクが地下経済の推定数値をはじき出し、話題になっている。それは暴力団の非合法ビジネスなどを含め、年間総額十六兆円という凄い金額だった。さらにその中で未成年の援助交際は、少なく見積もっても七百億円以上と推定された。
p336
市場規模マップというのがある。数値の正確性など分かったものではないが、今で5.6兆円。
20年前に比して風俗業界は10兆円も減少していることになる。言いたいことは山ほどあるが紹介にとどめておく。
本書は2000年頃のインタビュー集だが、これを読んで最も気になったのが
「40才になった彼女らはどうなったのか?」
そんなことを頭の片隅で考え続けていた。特に崩壊家庭に育った子供は親となった時また同じことを繰り返す――連鎖、スパイラル、、、結局自分がされた仕打ちを今度はする側に周ってしまうという事例は多いというハナシを聞くからだ。
ネットで調べる事は簡単だ。もしかしたら名前のない女優らのことも多少は分かるかもしれない。しかし私はそれができない。本書で何度か憧れの的となった飯島愛を調べてみたら40手前でよく分からない死に方をしていたそうである。
J・D・ヴァンス: アメリカの「忘れられた労働者階級」の葛藤
https://www.ted-ja.com/2016/11/j-d-vance-america-s-forgotten-working.html?m=1
というのがある。
構造的障壁、失望感などやや堅苦しい表現が多いが、自分が貧しい、或いは不遇な環境にいるという方は最後まで見て欲しいと思う。
またアメリカという事で日本とは色々違うという意見もあるだろうと思う。
しかし、私が言いたいのは、日本でどん底から這い上がった人はこうして元にいた階層の人に絶対にアドバイスをしないという点だ。
もちろん上の階層の人も同じ。だから構造的な問題というワケだ。
しかし私だってオッサンになってから知ったというのもあって偉そうに言えないのだけど…。
サルトルの嘔吐というのがある。
マロニエの木の根を見た主人公が吐き気をもよおしたというのである。世間の現実は厳しいし不景気がますます加速しどうしようもない世の中で、知らずにいるという事はどうなのかと疑問に思う。木の根っこは本来見えることはない。けれど実際は薄々分かってるが気づかないフリをしてるだけなのだと思う。なんもかんも臭いものにフタしてきた30年だが、いずれ地獄の窯の蓋が開くかもしれない、などと曖昧な言い方にとどめておく。