注ぎ手で、あるということ
私のお店は7坪ほどの小さなワインスタンドで、食事はそんなにいらないけれど美味しいワインをグラスで楽しみたくてご来店くださるお客様がほとんどです。
人生のバイブルである「王様のレストラン」というドラマと出会って飲食の世界に興味をもち、良く言えば一途に、言い方を変えれば愚直にこの仕事に携わってもうすぐ20年になります。
まだまだ道の途中ではあるけれど、気がついたらもう若手ではなくなっている自分がいて、これからの職業としての自分の在り方を内省してみようと思います。
小さなお店を構えるくらいですから、私はワインが好きで好きで堪りません。
ただそれ以上に、誰かにお酒 (もしくはそれに準ずる嗜好品) を注ぐという行為そのものが大好きなようです。
ワインってそもそも何処で買えばいいか、何を選んでいいのかとても難しいものです。
どうせなら誰かに注いでもらった方が美味しいと感じられるし、その美味しさを誰かと分かち合いたいものですよね。
「今日は蒸し暑いから、さっぱりとした酸味のある白ワインで涼んでいただきたいな。」
といった具合に、季節やその日の天候に合わせてワインをお選びすることは大切なことです。
微妙に温度を調整したり提供する順番にも気遣いすることで、その個性をさらに引き出したり味わいに緩急をつけることができます。
願わくば自分が注ぐその一杯が、お客様にとって何処で飲むよりも美味しいと思っていただけるような、そんな接客を目指して微差を追求する毎日です。
休日は老舗の酒場やオーセンティックバーにお邪魔することが多く、酒場のご店主やバーテンダーさんの振る舞いや美意識に感銘を受けています。
バーテンダーの語源をご存知でしょうか?
これは私の大好きな漫画である城アラキさん原作の「バーテンダー」からの引用ですが、
『bar = 板(酒場), 止まり木 tender = (優しい)番人, 見張り役』
から、「優しい止まり木」と繊細に形容されています。
お気づきの方もおられるかも知れませんが、私のお店の名前もペルシュ (止まり木) といいます。
肩書きにあまり執着はしませんが、敢えて何かに置き換えるのであれば私は『注ぎ手』で在り続けたいと思います。
この言葉を検索するとビールを注ぐプロに関しての記事が散見されますので、あくまでも私的な意味を込めて使わせていただきますが、
「優しい」かどうかはさて置き、お客様にとって疲れた羽根をそっと休めていただける、そんな 「止まり木」のような『注ぎ手』を目指したいものです。
小さなワインスタンドを始めて5年が過ぎました。
開業して間も無くのコロナ騒動もあって決して順風満帆にとは言えなかったけれど、それでもひとつの節目を迎えることができたのはお店を愛してくださるお客様あってこそです。
細やかながら感謝の気持ちを込めて、私がフランスでお世話になった Les Capriades のペティアン (微発泡ワイン) を振る舞わせていただけた事は、一生忘れられない素敵な思い出になりました。
一本のワインとの出会いが、その後の人生を大きく変えてしまうかも知れない。
そんなワインに人生を狂わされ、現在進行形でワインに狂わされ続けている小さなワインスタンドの店主の話。
日々思うあれこれや是非ともお伝えしたいワインに纏わるお話を、このnoteにて書き綴らせていただきたいと思っております。
乱筆乱文ではございますが、最後までお読みいただきありがとうございました。