プロダクトの米国向けローカライズ Part 1 - 重要性とポイント
米国展開する日本のスタートアップが最近増えているように感じます。自分もまさにスタートアップで米国市場に向けたプロダクトの開発に取り組んでいる身ですが、日米にまたがる組織立ち上げや米国向けのプロダクト開発のハードルはかなり高いと感じています。
これから何記事かに分けて、米国展開の中で遭遇するチャレンジについて、これまでの経験から得た知見をまとめてみようと思います。今後米国展開に携わる方の参考になれば幸いです。参考までに、自分はプロダクトマネージャーで、プロダクト開発や開発体制構築に関する話が多くなります。
まずは2回に分けて、プロダクトの米国向けローカライズについてまとめようと思います。Part 1 である本記事ではローカライズの重要性や考え方、Part 2 では言語・デザインなどの具体的なローカライズ方法について整理します。
Part 2 はこちら ↓
ローカライズの重要性
スタートアップが米国展開する場合、基本的には日本ですでにローンチされているプロダクトを米国に持ち込むという形になると思いますが、言語や単位などの表面的な部分だけ変えて持ち込んでも米国で通用しない場合が多々あります。生活習慣や文化、社会システムなどの日米間の差異に応じて、UXやコンテンツ、機能を米国向けに適応させていく、つまりローカライズすることが重要になります。
例えば、こんまりは米国で成功している事例としてよく取り上げられますが、YouTubeの動画を見ると日米で大きく変えていることが分かります。
上記の例では、具体的に以下のような点が日米で異なっています。
デザイン:日本版はカラフルでにぎやかなデザインだが、米国版は白を基調にしたシンプルなデザイン。米国ではシンプルなデザインが好まれる。
情報量:日本版は文字で動画の内容が説明されており、どのような動画かがパッと分かる。日本では十分な説明に信頼が置かれる傾向にある。
動画の長さ:日本版は数分の動画から1時間程度の動画まで様々だが、米国版はいずれも数分の動画。米国人は年々アテンションスパンが短くなっていると言われており、それを考慮していると考えられる。
このように、日米の文化の違いや快適に感じるデザインの違いなどを踏まえた上で、米国で通用するようにローカライズしていく必要があります。
米国向けにローカライズする上で注意したい点は、同じデザインでも各人のバックグラウンドにより受け取り方が様々であるということです。日本だと基本的には日本人という単一民族に向けてユーザ体験を考えればよいのでシンプルですが、米国は人種のサラダボウルと呼ばれており、多様性への考慮が欠かせません。例えば、色に対して感じる印象というのは各人のバックグラウンドによって異なります。そのため、特定のユーザ層にネガティブな印象を与えないように慎重にローカライズしていく必要があります。
どの程度ローカライズに投資すべきか
ローカライズの重要性はプロダクトの性質によって異なるため、まずは自分たちのプロダクトはどの程度ローカライズにコストをかけるべきなのかを考える必要があります。
ひとつの判断基準として、ユーザの実生活に密に関連したプロダクトであるほどローカライズの重要性が高いです。例えば「食」や「医療」といった生活や文化に根付いたものを対象にしている場合、ユーザの日々の生活に溶け込めるように深いレベルでローカライズすることが求められます。
メルカリは米国向けにUXを大きく変えているサービスのひとつです。モノの売買というオフラインの世界とも密接するサービスであり、ローカライズの重要性が高かったのだと考えられます。以下の記事が参考になります。
一方、オンラインの世界で完結するプロダクト(例えばタスク管理ツールや検索エンジンなど)の場合、そのままでも他国で十分通用する可能性があります。そのような場合は、可能な限りプロダクトをグローバルで標準化することで効率的に他国に展開することができます。
ローカライズと標準化はトレードオフであり、自分たちのプロダクトがユーザの実生活にどの程度根付いたものなのかを理解した上で、最適なローカライズのバランスを見出すことが重要です。
初期段階からグローバルを見据えておく
日本にいるとなかなか気付きにくいですが、日本は文化、言語、規制など、グローバルで見るとかなりユニークな環境であり、日本だけを想定してプロダクトを開発していると、将来的に米国展開する際にアセットの再利用が難しく、結局作り直すことになる場合が多いです。
一方、米国発のプロダクトは日本でも数多く使われていますが、ユーザ体験は変えずに言語や単位を変えるだけで十分通用している場合が多いです。なぜそうなるかというと、米国発のテック企業は、米国の多文化・多人種の環境を前提に最初から開発しているためです。そのため、米国発のプロダクトは文化や人種に依存しないシンプルなプロダクトになる傾向があり、結果として効率的に他国に展開することができます。
将来的に少しでも米国展開の可能性があるのであれば、初期段階からそれを見据えて日本独自のコンテキストに依存しないようなシンプルなプロダクトを設計しておくことで、既存のアセットを最大限に活用しながら米国展開に取り組むことができます。スタートアップはまずは目先にある自国での成功が最優先であり、言うは易く行うは難しだと思いますが、このことを頭の片隅に入れて開発しているだけでも大きく変わってくると思います。