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スマホに眠る確かな時間
トーク画面を遡る。
なんとなく、今の気持ちにフィットする誰かを探すときにする行為。
フィットしても今連絡できないなぁなんて思うのが嫌で、最近はそういうことをしていなかった。
昔は酔っ払うと電話できる相手をいつも探していたけど、大人になったのだ。
自分の中の虚無感を誰かで埋めようとするのは、自分が空っぽなだけのだと気づいた。
それでも時々人に甘えるけど。
iPhone→Android→iPhoneと替えたら、前のiPhoneのLINEのトークが復活した。
2年前に連絡を取っていた人のトーク履歴が急に復活する。
連絡しないであろう人は非表示にする。
そう、そんな中久しぶりにトーク画面を遡ったら、連絡しないであろう人なのに、非表示にできなかったトークが目に入る。
名前が出ていない。
「この人はきっともう連絡つかない。だから諦めよう」
と連絡先も削除したのだ。
なのに復活したからバグのようにトークに現れてしまった。
元彼。なんてわかりやすい相手じゃない。
私にとっては弟で、家族で。彼がこのまま誰も信じられなかったら本当に弟みたいに家族になれたらいいのに。と思っていた。
私は仕事、彼はお客さんなのに。
「どうせみんな裏切る」と彼は誰とも目も合わせなかった。真正面からぶつかるとそらされた。
そらすくせに笑っていた。
他の職員は手を焼いていたから、みんながやらないことを私はした。
無視されても、死ねと言われても、話しかける。着信拒否されても別の子機で電話する。
LINEをブロックされては解除され、届くかわからないメッセージを送っては次の日彼が来て、送ってはブロックされ、ずっとそんな関係で半年くらい一度も返事なんて来たことがなかったのに、返事にスタンプが来た日には同僚と飛び上がった。
かと思えばまたブロックされ、解除され。でも電話を折り返してくれることもあった。
「私はストーカーかよ」と思うくらいめげずにメッセージを送れたのは、弟だから。好かれるためじゃなくて、私は裏切らないって伝え続けたかったから。
本気で嫌ならブロック解除もしないし、無視され続けるはずだと思うのに、反応がある。だからブロックされる度にいちいちへこみながら諦めず話しかけ続けたのだ。
人の心を扱う仕事は結果は数字に出ない。
出ないと思っていたけど、出た。
彼が来る日は、月2回から週4回になったのだ。
だから私は段々連絡しなくなった。引きこもりの子どもが外に出たらもう見守るくらいしかできることはない母親のような気分で、私の能力という手札には彼に渡せそうなものはもう何も見当たらなかった。
「私にできることはもうないのかもなぁ」
なんて思っていたら、本当に仕事を辞めることになった。
裏切らないって言ったのにな。これじゃ裏切りじゃないか。と、思いながら。
そういう歴史が、トーク履歴を見ただけで蘇った。
私の仕事は「大変そう」とよく言われた。大変なのかもしれないが、私は楽しくて大好きだった。トラブルはあるし喧嘩の仲裁もする。暴言やらデリカシーない言葉やら言われることもある。
でも毎日違うことが起きるのが楽しくて、彼みたいに少しずつ変わっていく人の姿を見るのが嬉しくて、夢中でやっていた。
頑張るって、何かに命を燃やすのだと思う。
夢中だと頑張れるのだな。
飽きっぽくて最後まで頑張ることが苦手な私が、確かに頑張っていた時間がスマホの中に眠ってた。
私、ちゃんとやってたじゃんか。
数字を出したといってもそこには確実性はない。私だけの力でもない。営業成績とかもないし、経験年数も短い。
だから私が頑張ったことを証明できるわかりやすいものは、結局なんにもない。
けど、この画面には私が本気でやっていたことが残っていた。
彼と連絡は取れないけど、使った時間は確かにあって、ほんの一瞬でも心が変わったかもしれない瞬間がスタンプとして残っている。
この時間が見えるのは、なんだかやさしいな。
と、LINEに感謝した。このトーク画面は消さなくていいやと、スマホを閉じた。
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