【感情紀行記】新出ことわざ
高校時代のある日の帰り道、「棚から牡丹餅」ということわざを使って友人を揶揄したことがあった。その友人の反応は揶揄されたという事実よりも先に、古い言葉をわざわざ使って何様なんだ、という様子であった。そこから、古いことわざは日常的に使いづらいものがあるという話になった。
友人の発想は突飛で、言葉を新しくすれば使えるのではないかというところに着地したようだ。最終的に出た答えは、「ラックからマリトッツォ」であった。なんとも秀逸な言葉選びである。棚をただ英語・カタカナにするシェルフではなく、あえて海外から日本に来て馴染んだであろう「ラック」とし、当時流行していたものの一部の女子高生の食べるものであった「マリトッツォ」を選んだのだ。丸くて、甘くて美味しい牡丹餅の現代版はマリトッツォなのである。ラックから何かの拍子でマリトッツォが落ちてくる様子も容易に想像できる。
以後、何か思いがけない幸運が降りかかった時、ラックとその上に置いてあるマリトッツォが転げ落ちてくる様が、焼きついた脳裏から幾度となく再生される。