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アッレグリとはどんな監督か

ここのところは渋い顔でスマホを見つめているかもしれない我らがJuventus監督、マッシミリアーノ・アッレグリ。ジャケット放り投げやケツキックなどネタには事欠かない人物だが、本人の言葉を元に『アッレグリとはどんな監督か』を考えていこうと思う。


休業中のテレビ出演

アッレグリをよく知るためにまずはアッレグリがどのような考え方でサッカーを捉えて仕事にむかっているのかを知るべきだ。Twitterでアスプロマヴロさん( @Bnjb1897 )が監督を休業しているときに出演したテレビ番組の様子をアップしてくれていた。そのツイート「アッレグリさんに聞いてみよう」はその1〜9までのシリーズとなった。どれもとても興味深い内容で、私はそれをノートに書き写した

アッレグリノート

・オフの前だけは絶対に負けるな。私はオフを家族や友人と快適に過ごしたい。

・監督は選手の役に立たないといけない。結果を出させ、よいゲームができる状態にする。

・ユヴェントスやインテルやミランにおいて、絶対に勝たなければならない試合でのボールの重さは他のチームのそれと異なる。

・フィアットはイタリアで一番でなければならなかった。ユヴェントスはタイトルをとらなければならなかった。ともに労働者の精神がある。ユヴェントスのDNAは『ハードワークや犠牲的精神を通じてあらゆる勝利を勝ち取る』

・監督はクラブのDNAやどのようなクラブを指揮するのかを理解することが不可欠だ。

これだけでもアッレグリのサッカーにかける熱や思想がうかがい知れるが、さらにこのアッレグリノートの文と関連させて深く考えていきたい。

アッレグリ2014-19

コンテ監督の後を継ぎ、5年連続でリーグ制覇

そのポジションに1試合出れる選手と毎試合出れる選手がいる。1試合のみの選手は出続けると、集中力や注意力が低下する。

ベンタンクールを重用したかったはずのアッレグリ。(※アッレグリ退任後)チームは適正があるであろうインサイドハーフ起用から、人材が不足していたアンカーのポジションで起用することにチャレンジしていた。しかし良いプレーを見せたかと思うと繋ぎの部分で大きなミスをくり返すベンタンクール、最終的にチームから放出されることになった。まさにアッレグリの持論通りなのだが、歪なチーム編成の犠牲になった選手だと言えるだろう。(※加筆しました)

・きちんとパスを出すところから。それをいつ、どのようにすべきか、またどのような状況でしてはいけないのかを理解させる。11人がうまくできれば、3,4人でゴールが決まる。

ここが近年の言語化、学問化が進み言及されることが多くなった部分で『アッレグリってもしかしてエコロジカル・アプローチやってるんじゃないの?』というところだ。

ペップ・バルサの成功から、ポジショナルプレーこそがサッカーの正義だとされる時代がやってきた(それだけが答えではないと言われ始めたのはここ最近だ)。ポジショナルプレーは監督がシュートまでの設計図を描く。その位置にさえ選手がいれば、そのタスクさえ選手がこなせば、勝利する確率が高まる。選手の力は8割になるかもしれないが、チームの総力としては大きくプラスだ。

アッレグリはポジショナルプレーをしない。アッレグリは選手の判断にゆだねたい。個々の良い判断がチーム全体の柔軟性を作り出し、チーム総力で優る相手にも勝つことができる。いま自分がどのようなプレーをするべきか『適切な判断』をくり返すことを選手に要求している。エコロジカル(生態学的な)なアプローチだ。

しかしアッレグリの場合はそこに『アッレグリが考える適切な判断』という注釈がつく。それは古来からのイタリア的な考え方である。

・優秀な監督というのは、試合に負ける回数が少ない監督。できるだけ負けないようにするという考え方こそが良識を持ち監督としての仕事ができるということだ。ビジネスでも同じだ。

アッレグリの考え方は『負けない』を最優先にすることだ。だから大一番でリスクを取らない。たとえビッグマッチで勝てずとも、他の試合で勝ち点3を稼げばいいのだ。しかし、負けることはダメだ。大一番は引き分けで勝ち点1でいい。

『アッレグリが考える適切な判断』もここに基づいていて、危ない場所ではボールキープせずクリア、試合残り時間が少なければ攻めない。オフェンスの選手もリスクをとらない、守備に回る。このルールに違反したとき、彼は激怒する。

怒っている

アッレグリの基準に基づく、選手が適切な判断をしてプレー選択をしていくサッカー』は結果を残した。おそらくこのサッカーに必要なピースは、勝利を知り、経験を持つジョカトーレだ。キエッリーニ、ブッフォン、ボヌッチ、バルザーリ、そしてピルロ。カルチョを知る選手たちが『適切な判断』をし、セリエAだけでなく、チャンピオンズリーグも勝ち上がった。

しかし、華がなかった。アッレグリは競馬の「ハナ差」で勝つ勝負哲学を好む。5-1や4-0で勝つ必要はない。相手よりも1点多ければ勝つし、2位より勝ち点1多ければ優勝する。試合内容にもこだわりはない。それが最初の別れの原因となったことは明らかである。

アッレグリ2021-23

ピッチ内外で困難を抱える2季を送っている

サッリにスペクタルなサッカーを求めたこと、ピルロに新しい未来を期待したことが間違えであったかのようにフロントはかつての常勝監督を呼び戻した。しかし、チームを離れていたわずかな期間でチームは大きな困難を抱えるようになっていた。

・終了間際にいつも同じ形で失点しているのであれば、そこには必ず失点する理由がある。

・3月や4月にチームの問題を解決することは難しい。11月までに解決しておくべきだ。すべきことをしていたら、1月にはチームに何をすべきかなんて説明する必要はない。1月からはそれまでのくり返し。

ユベントスはかつてアッレグリが指摘していた『問題を抱えるチーム』へと変わってしまっていた。フロント主導でのチーム戦略であるCR7プロジェクトはコロナ禍とも重なり、経営的には大失敗に終わった。あわせてパラティーチを中心とする補強戦略により、チームの構成は歪なものになってしまっていた。質実剛健とは程遠いチーム、それがアッレグリが再来したユベントスだった。

第2次政権問題点①

『アッレグリの基準に基づく、選手が適切な判断をしてプレー選択をしていくサッカー』が出来なくなった。選手たちはモダンサッカーを学んできたものが多く、攻撃こそが勝利への近道だということを知っている。そして、古来からイタリア的思考から脱却できないアッレグリ。両者の溝は、やっているサッカーのチグハグさとして現れている。

第2次政権問題点②

アッレグリが休業中に起こったサッカーの大きな変化、5人交替制である。それまで90分(延長で120分)の試合を残り時間と選手の疲労度合い、展開する小試合を読んで効果的な選手交替をおこない「ハナ差」で勝ってきたアッレグリ。どうも5人交替制での「ハナ差」の勝ち方の感覚がいまだ掴めていない。試合終了間際に失点し、勝ち点を逃すなどかつてのアッレグリのチームでは絶対に見られなかったことだ。

アッレグリに求められる変化

最大の武器はカウンターだった

22/23シーズン、グアルディオラがついにビッグイヤーを手にした。最高のCFを手に入れ、代名詞であったポジショナルプレーにこだわらず、引いて守ること、そしてそこからのカウンターサッカーを選択することもできるようになった。

アッレグリは変わることができるのか。選手たちの良さを見抜いて、選手たちが気持ちよくプレーできるように『アッレグリの基準』をモダンサッカーにあわせてアップデートする必要がある。「ハナ差」を諦めることはしないだろう。ならば、5人交替制に適応するしかないし、選手たちにそれが正しい道だと信じさせる必要がある。

アッレグリも変わる必要があるし、選手も変わる必要がある。それではやはり監督交替をしていた方が良かったのではないか?と言われるだろう(その金はチームにないようだ)。しかし、ユベントスのDNAには『ハードワークや犠牲的精神を通じてあらゆる勝利を勝ち取る』の他に『改革』があると考えれば、チームのDNAを理解したアッレグリには今季期待するしかないだろう。

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