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炒飯ライス

「この貧乏くさい炒飯が何でこんなに美味しいかねぇ」
「ばーか、炒飯ってのは貧乏くさいほど美味しくなるもんなの」
 金持ちはそんなことも知らないんだね、とキョーコが言った。
「だってさ、冷凍炒飯に冷やご飯足して炒めただけなんでしょ?」
 キョーコはジロリとマアサを睨む。
「……そうだよ」
「なのに味薄くないし、するするいくらでも食べれちゃう」
 すごいなぁ、と言うマアサを無視してキョーコは黙々と炒飯を食べている。
「キョーコはさ冷凍炒飯とか使わなくても作れるんでしょ? それも食べてみたい」
「作らないよ」
 えーなんで? と能天気に言うマアサにキョーコは、いいから早く食べろと顎で示す。
「あんたは高い中華料理屋のとか、家政婦さんが作ってくれる炒飯食べてたらいーの」
 マアサは、口の中の炒飯をしっかり咀嚼し、飲み込んでから話し始める。そういうところの行儀はさすが金持ちだな、とキョーコは目を伏せた。
「分かるよ、なんかこう、しっとりパラパラで具がゴロッとした炒飯食べたこともあるし、その美味しさも確かにあるんだけど、なんかキョーコの炒飯は違うんだよね」
 そう言ってもう一口、マアサは炒飯をほうりこむ。
「忘れられない炒飯の味ができたんなら、金持ちとしては上出来だよ」
 すぐ金持ち金持ち言うんだから~、とマアサは呆れた顔をする。とっくに食べ終わったキョーコは食卓がわりのローテーブルからさっさと立ち上がり、食器を流しに置いた。笛吹きケトルに残っていた水を食器にかけてから、新しい水を汲む。キョーコはコーヒーを入れるための湯を沸かし、換気扇の下で立ったまま煙草を吸いながら、炒飯を食べるマアサの後ろ姿を眺めた。カチャカチャと炒飯を集めるスプーンの音は微かで、耳に心地いい。マンションの隣に流れる川から反射してくる昼下がりの陽光が天井に揺らめいている。
 人生で一番幸せな時間は、間違いなく今だなと恭子は思った。

 

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