オニオンリング
オニオンリング
「オニオンリングって、食べたら美味しいってわかってるのに、なんっか買うの躊躇しちゃうんだよね」
一帆は私の買ったオニオンリングにたっぷりケチャップをつけながらそう言った。
「昔さぁ、家で生のタマネギスライスしたサラダがよく出てて、歯触りと口の中に広がるネギ感が苦手で。火を通したら大丈夫だって頭では分かってるんだけど」
やっぱりマスタードも貰えばよかった。二つソースを貰うのはがめつく見られるかな、と思って躊躇してしまったことを今さら悔やむ。そんな私の気持ちなどお構いなしに、一帆は遠慮なくオニオンリングを食べ続けている。
「今でも生タマネギのスライスって苦手。だけど、変だよね、ラーメンの上にトッピングされるネギは大好きなのにさ。似たような感じなのに。あ! でもそう考えたらさぁ」
この人は本当によく喋るしよく食べる。食べかけのアメリカンドッグを指揮棒みたいに振り回しながら、ひとりで喋ってケラケラ笑って楽しそうだ。
「こないだ初めてつけ麺食べにいったの! そしたらつけ汁に生の7ミリ角ぐらいの生タマネギが入っててね、それはめーーーっちゃ美味しかった。なんていうか、味のアクセントにちょーどよかったんだよ。じゃあもう私って生タマネギの何が嫌なんだろね?」
そう言って、一帆はアメリカンドッグの串を渡してきた。串の真ん中より少し下に、衣のはじっこの美味しいカリカリがついてる。
「串に口つけないように食べたから」
少食の自分にとってアメリカンドッグの最後のカリカリは憧れの食べ物なのだと、一度だけ話したことがある。
「なに? にやにやしちゃって。早く食べなよ」
普段は喋りすぎなくらい喋るくせに、照れくさいとそっぽを向いて黙る。だから私は彼女のことが嫌いになれない。
了
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