【名前のない店】第3話:扉の先に待つもの
白い扉の向こうから聞こえる音——
それは、何かを囁くような、不明瞭な声だった。
低く、重く、幾重にも重なって聞こえるその音が、蘭の耳にまとわりつく。
「……進むのか?」
あの声がまた響く。
目の前の扉は、すでに半分開いていた。
だが、その先は——“見えない”。
どれだけ目を凝らしても、白い光がただ広がるだけ。
まるで、ここがこの世界の終点であるかのように。
けれど、蘭の足は……勝手に動き出していた。
◆
——ズズッ……ズズズ……
一歩、踏み出す。
すると、世界が裏返るような感覚が襲った。
体が引き裂かれるような浮遊感。
自分がどこにいるのか、何をしているのか、すべてが不明瞭になる。
その瞬間——
ズシャアアアアアアッ!!!!
視界が真っ赤に染まった。
蘭は、地面に叩きつけられていた。
「……っ!」
顔を上げると、そこは店ではなかった。
見渡す限り、荒廃した街並み。
燃え残ったビル、ひび割れたアスファルト、漂う黒煙。
どこかでサイレンの音が鳴っている。
だが、それよりも——
「……いる。」
蘭の目の前、瓦礫の山の上に、何かが立っていた。
それは、ヒトの形をしている。
けれど、明らかにヒトではない。
黒い霧のようなものをまとい、顔は影に包まれて見えない。
だが、その存在感は圧倒的だった。
そいつは、静かに手を上げた。
次の瞬間——
——世界が“叫んだ”。
◆
蘭の鼓膜を破壊するような轟音。
地面が裂け、空が歪む。
“それ”は、何かを呟いた。
——「ようこそ。」
——ズガァァァァァン!!!!
蘭の体は、闇へと飲み込まれた——
◆
(次回予告)
「この世界は、一体……?」
「“それ”の正体とは?」
「蘭に託された“役目”とは?」
次回、物語は核心へ——
「第四話:選ばれし者の証」
蘭は、この世界の“真実”を知ることになる。