#今月の本屋さん Books & Coffee 谷中 TAKIBI(東京・谷中)
文豪の街、谷根千エリアに新しい本屋さんができました。本とコーヒーも楽しめるシェア型の本屋「Books & Coffee 谷中 TAKIBI(たきび)」です。近隣には「往来堂書店」「ひるねこBOOKS」「雑貨と本gururi」といった個性的な本屋さんがひしめいています。最寄り駅は千代田線の千駄木駅、徒歩6分ほどでお店に着きます。
シェア型の本屋さんとは、地域に住む人など色々な方が本棚を借り、自分の販売したい本を置いている本屋さんです。基本は古書が中心で、以前紹介した神保町のPASSAGEや下北沢にあったBookshop Traveller(2023年4月に祖師谷大蔵に移転)も同じスタイルです。その地域に住む方が、自分の好きなことや関心を寄せていることをテーマに本を厳選しているため、その街の特色がなんとなく表れているような気がして、ひと棚ひと棚が見飽きません。
入口の右手すぐには、絵本の棚がありました。ここはTAKIBI店主の安藤哲也さんの本棚で、ご自身のお子さんたちに読んできた絵本です。この取材のつい先ほども習い事の帰りに立ち寄ったお客さんが絵本を買っていったとか。安藤さん、絵本の読み聞かせもしてくださるそうですよ。
こちらは「BOOKSはらぺこ」さんの棚。『盛岡の喫茶店 おかわり』が気になります。くどうれいんさんの本もお好きなのですね。本棚にはQRコード入りのネームプレートが張り付けられています。このQRを読み込むと、棚主さんの詳しい情報だけでなく、この本棚と同じ書籍リストをご覧になれます。実際に見てみると「気に入った本をプレゼントしあう友人がいて、しかしおすすめしたい本が多すぎて他にも何人かそういう人がほしくなり、売ることにしました。愛してやまないくどうれいんさんの本は常に補充します。」とありました。素敵です。
「山と旅を愛する本屋さん」の棚です。棚主さんは小さいころから鉄道が好きでローカル線の旅をし、大学からは山にはまり、今は早期退職後、旅をしながらセカンドライフを満喫しているとか。大変うらやましいです。
「マリア書店」さんはその名のとおりキリスト教に関する本が多いですね。素敵なイラストのポストカード!と思ったら、棚主さんは画家でもありカトリック信徒でもある竹中恭子さんなのでした。
個人だけでなく法人からも出品しています。こちらは大阪の出版社、西日本出版社さんの棚。代表の内山さんがみずから棚を並べにいらしたとか。棚主さんはこのように自分で並べることももちろんできますが、TAKIBIまで郵送してお店で並べていただくこともできるので、遠方からでも出品できます。
こちらは目黒にある本屋「COOK×BOOK」さんが、離れ本屋さんとして出品しています。食べ物にまつわる本が並んでいますね。こうして別の本屋さんがシェア型本屋の棚に分店のような形で出品してくださると、いつか本店にも行きたくなってきます。
こちらがTAKIBI店主の安藤哲也さんです。実は安藤さんは往来堂書店の創業者、初代店長さんでした。出版社や書店、取次店など出版業界で活躍したのち、父親支援事業のNPO法人ファザーリング・ジャパンを設立、現在も代表を務めています。2022年には、全国の無書店地域における本屋さんの復活と、あらゆる書店の課題解決を目指すNPO法人ブックストア・ソリューション・ジャパン(BSJ)を立ち上げました。今回のTAKIBIはこのBSJのミッションとして「現代でも通用する書店モデル」を模索する中で、出店を思い立ったそうです。「新刊書店で本を買い、読み終わったらTAKIBIで販売し、そのお金でまた新刊を購入するというエコサイクルを作りたい」とおっしゃっていました。
そして安藤さんといえば、出版業界では「文脈棚」を先駆けて実践された書店員さんとして知られています。文脈棚とは、文庫や単行本、出版社名などの形式で棚を分類せず、テーマが共通していたり、親和性が高いものを近くに並べる手法です。今回のTAKIBIでもこの手法を取り入れ、LGBTQなどの多様性をテーマにした棚の周辺には、組織論や働き方、育児の棚を配置するなど、出店者間の親和性を見て本棚が編集されています。これまでのシェア型本屋に無かった特徴です。
こちらは音楽の棚と、レコードプレーヤー。その場でジャズを聞かせてくださいました。いい音!音楽を聴きながらコーヒーを楽しむこともできます。
ロックやジャズの名盤がずらり。レコード盤も販売対象になっているようです。
店内にはところどころで安藤さんが著作した育児に関する本を見かけますが、私はこちらの『PaPa’s絵本33~パパのためのROCK’N絵本ガイド』という本を購入しました。絵本と相性のいいロックの名盤を紹介する本です。
『給食番長』のBGMにはディープパープルの『BURN』が合うとか、『ぜったいがっこうにはいかないからね』にはエアロスミスの『ROCKS』がいいとか、ぶっとんでるな~と思いましたが、確かに合いそう…新鮮…。
店名である「TAKIBI」は、自然と人が集まって、本の話、暮らしの話、仕事の話などを話し出す「たき火」のような本屋をつくりたい、という願いが込められています。店内ではトークイベントや読書会も継続的に行われるようで、私も含め地域に住む人々にとってはうれしい知の発信場所、文化交流の場所ができました。今後の展開が楽しみです。
TAKIBI公式サイト:https://takibi.work/
(文・写真:PIE三芳寛要 撮影日:2023/7/8)
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