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道しるべのない場所に一人立たされるということ〜名人戦開幕〜

第58期名人戦、中村茂名人-中山智晴珠王の五番勝負が開幕しました。現在のタイトルホルダー同士の二人であり、頂上決戦で世界の連珠ファンも注目の番勝負です。

2年ぶりに記録係を務めるにあたって、どんな印象を持つか楽しみにしていました。今回は自分の参加したリーグで代表となった中山が挑戦するということで、より感慨深くもありました。でもやはり、実際見ると2人の世界はあまりにも自分とかけ離れた次元で戦っていて、とても自分の対局の延長線上にこの2人がいるとはまだ思えませんでした。

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それでもあれだけA級で安定して強かった中山が、第一局でボロボロに羽をもがれたり、第二局追い詰めに着手する前に心臓を抑えたりハァハァと息も絶え絶えに這いながらトイレに向かったりしている様子を見ると、山の頂上というものは中山をこれほどまでにするのかと衝撃を受けました。中村名人の強さ、偉大さは、弱い私にはまだ咀嚼できません。こういう現場の様子を見て少しずつわかるようになりたいです。

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間近で見ていて、技術的に何かわかるようになったかと言われたら何もわからない笑。お隣の将棋界では記録係不足も叫ばれています。現在はAIによる研究が盛んで、効率面で言えば記録という勉強法は今後敬遠されていくのでしょう。しかし私は記録の醍醐味は勉強にあるのではないと思っています。この情報に溢れてる世界で、外部から遮断され、盤上にひとりぼっちになるのが対局者だとしたら、記録係もまた、一切の情報から遮断され、頼れるのは目の前の手と、対局者の表情仕草、そして自分自身の連珠観という、対局者と全く同じ状況に身を置くことができるのです。そこで自分が何を感じて何を考えるか、まっさらな状態で何を思うか。対局者と同じ孤独に浸れるというのが記録係で、それは他では味わえない稀有な経験になると思っています。

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この人もまた、強い人のいる世界の空気を味わいたくて京都から来たのでしょう。


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