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連珠世界選手権記・8 WT初日

8/4。いよいよ自分の対局、WTが始まった。ATの隣の、昨日までスナックルームであった部屋が対局室だ。陽当たりが良く、ピアノが常設されている清潔な空間。規則正しく机と椅子が並べられ、厚みのある盤と中国式の平たい表裏がわかる石が置かれていた(連珠では、候補手を提示する時に裏向きに置いたりするため表裏の区別がある石の方が分かりやすい)。

世界チャンピオンを決めるATと全く同じ、対局者に等しく敬意が払われた環境だ。思えば、将棋の世界では棋士と女流棋士では違う駒が使われていた。またアマプロ混合の試合ではプロのみ厚みのある盤だったりする。私はこの序列の無い対局室が嬉しかった。いやむしろ、これまでがおかしかったのだ。

初戦の相手はエストニアのハンナさん。とても可愛い。昨年中国のSOPAI杯に遠征しているぐらい連珠に情熱がある。レートは600程下だったが、一手一手大切に考えて、集中している。手も本格的で、ずっと一番やられて困るなと思う手を続けてきた。私は直ぐにRIFのレーティングは全く参考にならないことを悟った。ここにいる人、きっとみんな私より強い!

周囲を見回しても、皆んなが本格的に連珠をしていることは明らかだった。私の知らない序盤がいくつも出現してるし、皆んなの時間の使い方、手、場慣れした様子を見れば、格が違うのは一目瞭然だ。

なんて事を考えてたので、私はイマイチ対局に集中できてなかったのだと思う。途中打ってからヒヤリとすることがいくつもあり、ちゃんと読み切って進めていなかった。いつもなら選ばない手を心配しすぎて選んだりもした。結果的には完封勝ちしたが、たまたま受かっていただけだ。前途多難。自分の感覚も、読みの精度も、メンタルも、調子が悪いと思った。

http://www.renju.net/media/games.php?gameid=83336

ハンナさんは時間いっぱいまで使い、私は44分も余らせている。中山に「分からない序盤は1時間でも投入するつもりで考えた方がいい」と忠告された。

QTを通過しなかった李小青と汪清清がWTに参加したため、総当たり11局ではなくスイス式9局に変更された。成績が良ければ上位陣と当たれるわけで、当面の目標がこの2人に当たることになり、2Rで早くも実現した。

普段はテンション高い小悪魔的な清清は、対局中はとても品の良い優しいお姉さんのようになる。優しい雰囲気と、厳しい手に包まれて私はふわふわ良い気分になった。一方で百戦錬磨のベテランに、ビギナーの私がどこまで戦えるのだろうかと不安でいっぱいだった。

それが表れたのが図だ。普段ならこんな9は打たない。6の左に打つだろう。後でi7などと継続されるかもしれないなど、心配していた。何しろ相手はめちゃくちゃ攻めが強い。自分には分からない攻めをしてくるのではないか、という恐怖で手が縮こまっていた。

しかしその後は懸命に打て、一時の絶望的な状態を凌ぐことができた。ここはチャンスが初めて訪れたと感じていた。

私は手堅く29と右辺に手を入れたのだが、30と下辺を先着されてチャンスは吹き飛んだ。ここは右辺は狭く寄せがないから先に下辺に先着に打つべきだと局後清清が教えてくれた。

30からもう受けがない、というのを察知する能力が無く、純粋な棋力不足だった。またずっと右辺で危険な時間が続いていたから、どうしても意識がそちらに向かってしまっていた。これは対局の流れに左右されたメンタルの弱さだ。両方の意味で、私は力が足りなかった。

終盤はずっと横で李小青が見守っていて、終わると感想戦に加わってきた。彼女は2RでWu Zhiqin(中国)に敗北し、「ミスったのよ〜!三々禁さえなければ〜!」みたいなことを清清に早口でまくし立てていた。私が傍らに置いていたおやつの葡萄を勝手に食べながら。可愛い。

優勝候補の李が初日で負ける波乱の展開となった。


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