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連珠世界選手権記・7 五目&連珠ブリッツトーナメント

QTが終わり一夜明けた8/3はブリッツトーナメント(早打ち大会)と開会式があった。

疲労が溜まっていた私は休息を取ろうかとも思ったが、世界一周旅行中の北尾まどかがブリッツに出るというので自分も参加することにした。2010年にカンヌのゲーム祭で、一緒にチェスのブリッツに出たことがある。初心者で何が何やらわからないうちに終わったが、とても楽しかった。およそ10年経ってまた一緒に海外の気楽な大会に出られるなんて嬉しいではないか。

レギュレーションは同じ相手と五目ルール、連珠ルールで2局、4分+フィッシャー2秒というもの。連珠の開局規定はソーソロフ8でなくスワップ2と呼ばれるもので、五目と共に何が何だか全く分からないまま進行していった。指し分けにはならなかったが幾つか勝つことが出来、とりわけQTに出ていたSun Inさん(マカオ)に五目と連珠両方で勝てたのは嬉しかった。

長らく観戦だけで久しぶりに自分で石を持ったので、ちゃんと詰ませたり、そもそも三を止められるか不安なほどだった。明日からの本番の連珠とはルールも違うから、気楽な肩慣らしと思えば万々歳だ。時計を実際触れたのも大きい。

北尾氏は負けが込んでいたようで、終了後「やろーぜ」と憂さ晴らしのターゲットに私を指名してきた。棋士は負けた痛みを取り返すには次に勝つしかない。昔から何度も見てきた彼女の姿だ。

私にもボコボコにされ、彼女は「連珠は糞ゲー」だとご立腹。全く、この20年全然お変わりない。

私も人の事は言えない。2年前、桑名七盤勝負で初めて選手として連珠を打った時のことを告白しよう。詰め連珠を始めて2ヶ月ぐらいだったが、福井六段相手に序盤をたまたま定石通りに打てたらしく後で褒められた。私はそれでも悔しくて、こっちを見ていた岡部九段に駆け寄って「どこが悪かったですかー?!」と問うた。その時岡部九段は真顔でこう言った。

「北尾さん強かったですよ」

私は絶句した。

なぜ、今ここに居ない関係ない北尾さんが出てくる??なぜ、私の質問と全く関係ないことを??そしてなぜ、一番負けたくない奴を知っている?!?!

あまりの事に頭の中がグルグルしながら言葉を失ってると、岡部さんは小声で「煽っていくスタイル……」と呟いた。その後、何を話したか覚えてない。しかしその名前を出されたら、連珠を真面目にやらなくてはならないなと思った。私は連珠をやるにあたって高尚な目的も勿論あるが、このような卑近な「こいつにだけは負けたくない」というものも確かにある。岡部さんには上手いことやられたと思う。

全く私も、20年変わってない。しかし変わったところもある。自分には才能が無いから、人と比べて一喜一憂しないでおこうと思うようになったこと。誰かに勝つ為にやるのではなく、自分の為にやろうと思えるように至ったこと。私は今は北尾氏に関係なくエストニアまで辿り着いたことに満足していた。もう薄暗い動機だけの人間ではないのだよ。よかったよかった。あはは。

彼女がエストニアに来てくれたのは嬉しかった。将棋を普及するにあたって連珠の世界のことを参考にしたいという目的だったと思うが、普及人としてだけでなく、彼女の中にプレイヤーとしての執着があることを私は知っていた。今将棋をしていた当時よりのびのび競技を楽しんでいる私を見て、彼女がプレイヤーとしてどう思うのか、何か感じて欲しいと思っていた。

ここ最近私はプロの将棋界のシステムに疑問を持つようになった。例えば三段で実力がありながら淘汰された人達。資格とか必要ない、アマもプロも参加できるエントリー制のオープントーナメントがあってもいいのではと思う。チェスのように。

また、自分が日々連珠を練習していて、この生活をずっと続けるのはしんどいな、と思うようになった。体力気力的にもしんどいし、社会からどんどん離れてしまう危機感がある。自分の環境や状況がマッチするタイミングで、ある期間だけ集中して競技に取り組む、そんなライフスタイルもあったっていいじゃないか。

夜そんな話をした。彼女もまた、プロになった途端に市井のトーナメントに出場できなくなり、対局数がアマチュアに比べて減る現状を憂いていた。

今の棋界は恵まれてる一方で多様な生き方が出来ない仕組みになってると思う。アマもプロも色んな人がそれぞれの生き方で競技を幸せに続けられるようになるといいなと思う。






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