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連珠世界選手権記・1 連珠のためについたて将棋をやる男

連珠の世界選手権は以下のトーナメントで構成されている。

・本戦決勝(A Tournament=AT)

12名の代表で世界チャンピオンを争う。半分ほど国別に与えられた枠があり、国内予選で代表になった者は直接出場できる。代表に漏れた者は国別の垣根の無い現地最終予選(Qualification Tournament=QT)を争い残りの枠を競う。ここで通過できないものは後述のWTやBTに出場したり観光などをしてそのまま帰国する。

・女子の部(Woman Tournament=WT)

基本12名総当たりで争う。日本は女子人口が少ないため国内予選がなく、希望すれば出られるというのが現状。過去に日本から参加した者も殆どいない。2011年に突如強豪として参加した新井和美初段は金メダルを取り、その後競技から離れている。

・オープン大会(B Tournament=BT)

QT敗退者やそもそもQT参加資格もない強豪や、地元の初心者まで誰でも参加できる。

というわけでWT参加の私は前乗りしてQTを観戦したので少しレポートしたいと思う。

今年の日本からのQT出場者は以下の2名。

中山智晴八段。2017年AT出場。前名人。彼曰く「自分のQT通過確率は3〜4割だろう」。それは謙遜でもなく大真面目な見解だった。というのも2015年に世界チャンピオンを取ると意気込んで参加したものの、まさかのQT敗退となった時の記憶が鮮明だからだ。また体力的な自信が無かったり、勝負師タイプではなくどちらかというと自身が探求者タイプであることからも相手を蹴落としてでも勝つ連珠をしなくてはいけないQTは厳しいと感じていた。

棋風は受け、特に根絶やしの受けに強い。感覚型で早打ちが強く、直線の読みや追い詰めには自信を持っていない。コミュ力も連珠の強さの一つと公言し、海外の研究家とのネットワークも深く、最新形に精通している。英語と中国語が堪能。

小山純六段。過去に二度QT7位となり、あと一歩のところでAT出場を逃している。名人戦A級リーグに何度も出場している強豪。受けが強く、中山とはまた一味違う、間接的に相手の狙いを止めるような独特の受けが得意だ。詰め連珠作家であり、実戦でも作ったような華麗な四追い筋を決めたり、劣勢からの僥倖アタックを決める勝負術に長けている。通称・四追いの神様。

この2人を側から見ていて、珠王戦(国内予選)で枠を逃してからの中山は半端無い気合いでQTへの準備を進めていたと思う。出国前に「結局これだけ準備しても使える作戦ができなかった」と弱気をこぼしてたが、それでも日々連珠とこんなに向き合ってる人間を神様が見捨てる筈ないと私は思っていた。

一方の小山六段は、連珠もう辞める、引退しますが口癖だし、6月の名人戦予選も半分寝ながら打っていて、QTに向けて仕上げる気があるのか……?私にはわからなかった。最近はどう見てもついたて将棋に心を奪われているようだったし、乗り継ぎのヘルシンキ空港でもついたて将棋をしている有様。小山さん…?大丈夫?

ところが蓋を開けてみると不思議なもので、対局室の小山六段はここ一年で一番頼もしく見えた。海外の強豪が発するオーラに負けない、何かやってくれそうな安心感がある。雰囲気だけでなく、あまり中座もなく良く集中して読みを入れていた。

一方の中山は、心配で見ていられなかった。常に死にそうな顔をしているし、局面も受けが弱い私から見ると大丈夫なのかいつ楽になれるのか気が気じゃない展開ばかりだった。

やっとの思いでヘロヘロになりながら満局(引き分け)に漕ぎ着ける中山に対し、小山初日2連勝。なぁんだ。やってくれる方の小山さんだった。聞くところによると、どうやってQTで戦える状態にするかを良く良く検証した結果、ついたて将棋を練習するのが最善という結論に至ったらしい。つまり複雑な読みを要する連珠は脳に負担がかかりすぎる。適度に脳を刺激し活性化する為の方策としてのついたて将棋だった。結局は、2人とも連珠のことを第一に考えていたのだ。


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