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連珠世界選手権記・9 WT2日目

3Rの相手はロシアのノンナさん。去年サンクトペテルブルクのチーム世界戦で運営をされていたので、プレイヤーでもあるのかと驚いた。

ノンナさんは朝が弱いのか、度々遅刻していた。この日も30分ぐらい遅刻しており、私は昔相手がそのぐらい遅刻した時に完敗した記憶があるので、「こういう時はかえって危ないんですよ!」と心の中で思いながら待っていた。集中してる他の皆んなが羨ましかった。

ノンナさんは到着するととても丁寧にお辞儀して、私にロシア土産を下さった。昨日の汪清清もそうだった。どうやら、対局開始前にプレゼントを渡す慣習があるっぽい。他にも日本の「よろしくお願いします」のタイミングで「Good Luck」と相手に言ったりする。最初は戸惑ったが、和んでいいものだなと思った。そうか、ここは国際交流の場でもあるんだ。

ノンナさんは丁寧な手つきで可愛らしいハリネズミの置物を対局時計の脇に設置した。棋譜用紙を記入するときは、数字の周りに丸が書ける定規(棋譜とぴったりサイズ!写真参照)を使い、青赤の二色でこれまたゆっくり記入。フィッシャー30秒で書けるんかいなと思うほど丁寧に。

とにかく、何をするにも気合が入っていた。想いが込められていた。時間もかけて一手一手よく読んでいる。ならなぜ遅刻した。 

ノンナさんは白6,8と私の知らない手を(=中山八段と打ったのにすっかり忘れた手を)やってきた。初見なので(=何も覚えてないので)自分の力で考えるしかない。

図の局面で一番考えた。9と引かせてもらえたので剣先は残ったが、その分上辺に黒は借金を残している(白が10と止めながら石を置けたので手番を渡すとこの石を起点に反撃される。これを連珠では借金という)。8-12の下辺でも借金があり、両方おさめるのは容易ではない。

こういう借金を抱えた時は黒が固まってる方向で攻めきってしまうのが最初に考える方針だが、第1感のトビ四からクラ型を作る手があまりうまくいかない。

というわけで一気に攻めるのを断念して、下辺を受けながら黒に攻め筋を残し、上辺だけ受ければいい17までを考えた。この時点で18がヤバイことに気がついてたらここに三を引いておいたのだが…。

20は簡単に受かると思ってたら三々禁があるじゃん………。私は禁手が苦手で、この日も察知するのが遅れた。普通に止めるのはダメなので仕方なく21を捻り出したが、以下見事に詰まされた。手順を間違えてくれれば四がノル筋があったのだが、ノンナさんは残り時間を全て投入して、堂々とし、間違える気配はなかった。

私、弱い。何というか、自分の連珠が全く出来てない。本格的にヤバイぞと思った。

局後岡部さんに見てもらった。「これ大変な連珠なんですよ」と教えてくれた。私が思ってた容易ならざる局面という感覚は合ってたっぽくて、少し慰みになった。そして、未知の序盤を考える大局観を育んで無かったなと改めて感じた。

QT観戦の時からずっと、自分がやってきた連珠とここでやられてる連珠は別物、という印象を受けていた。私はそれをこれから知りたい。敗戦のショックを抱えながらも連珠に対する好奇心が過去最高に膨らんでるのを感じていた。

その好奇心がうまく反映されたのが4RのYu Yajun(中国)戦だ。

6はこうすると知っていただけで、7から全く未知だった。懸命に時間を使って読んで、相手はノータイムで13までを迎えた。どうやら定跡進行をなぞれたらしい。

ここで白の形勢が悪いことを自覚した。左上と右下に借金がある。黒は何を次に狙ってるか、懸命に考えた。善悪はともかく自分自身納得できる手を選んだ。充実感のある時間だった。

この24が感触良く、小山さんにも褒められた。「うん、これ以外は却下」。この辺りから相手の焦りが伝わってきた。中国選手は相手の攻めを受けながら自分の好点となるところに打つ傾向が強い。僅かでも攻めの目があるとまず摘んでから新しく攻め筋を作る。そんな予想をつけながら相手に対応していく時間が続いた。満局に出来る手応えがあった。

途中勝ちが転がり込んだかと錯覚した局面。n8に四を引く手だけを見落としてて、勝ちではなかった。普段の私ならショックで崩れるところだが、元々満局を目指してたのでこの時は動揺しなかった。

左下も三々禁がありそうでない。70で生まれて初めての「offer draw」。英語と日本語が少し出来るYuさんは「私もうちょっと頑張る」と英語で拒否した。しかし事件は起こらず、程なく満局となった。

私は苦手な白番で、相手の狙いをよくよく考えられたこと、未知の序盤を凌げたこと、勝てると思わなかった中国選手から0.5勝取れたこと、とても満足していた。将棋は勝つか負けるかしかなかったが、対話の末にある満局という存在は、なかなか良いものだと思う。

Yuさんは聡明で明るい美人さん。対局中はキリッとしててカッコいい。局後「昨日あんた溪月のこの進行やってたから作戦選んだのに昨日と手を変えたわねー!今日は満局2局で1ptしか取れなかったわよー!」と言ってきた。その後は戦友のようになり、Yuさんの局面をよく見に行ったし、向こうも心配してくれてるのか私の対局をよく見にきてくれた。

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