ブレーキをかけない人
昨夜、木村一基九段が王位を獲得しました。
木村先生ほど多くの人に愛されている棋士はいないなと感じました。木村さんは間違いなくトップ棋士ですが、対局以外のお仕事もかなりされてる方でした。ファンを大切にし、後輩にも面倒見が良く、普及の仕事も熱心で、対局以外にもさまざまな貢献をしていた。木村さんと直接関わりを持った方は、それぞれに抱えるエピソードがあり、それらの思い出がそのまま応援の数となっていた印象でした。木村先生が歩んだ人生がそのまま推しあげる力となって昨日は返ってきていました。皆んなで偉業を達成した瞬間を思い出を噛み締めながら共有できたのは、長年の将棋界の積み上げてきたものの結晶のようで、よい世界になったなあとしみじみしたものです。
私も木村先生には大変お世話になりました。観戦記の解説者としても何度もお世話になってまして、仕事ぶりは本当に丁寧でした。昭和48年生まれの同い年ということや、お子さんがほぼ同じ時期に生まれたこともあり、どうしたって目が離せない方でした。産後にお見舞いに行った数少ない方でした。同じ江東区に在住で、役所で家族がばったり会うことも笑。だから北野記者がお子さんの話を局後のインタビューで振った時はあぁ〜と思ってしまいましたね…。大きくなったんだろうなぁ。
ところで木村先生と言えば私の中でこのエッセイが印象に残っていました。
"将棋に負けるのは辛い。職業としてこの道を選んだ者として、負ける度に自分の存在を否定されて落ち込むからだ。
これからもそういったことの繰り返しが続く。自分の全盛期はいつまでなんだろう、そんな不安はいつでもある。
タイトルを取りたい。取れるだろうか。無理だろうか。きりがない。"
これを読んだ時にかなり驚きました。
「タイトルを取りたい」というのは誰もが言う言葉で、そして誰もが言わなくなる言葉なんです。みんなプロを志した時、あるいはプロ入りした時などは目標として掲げます。しかし何年も経って、そう公言し続ける人はあまり記憶にありません。誰かいましたっけ?私の中では木村一基でした。
これを読んだ時から木村先生はタイトル戦を戦ってる時は勿論、解説をしていても、お子さんを抱いてても、何してても「いつかタイトルを取ろうとしてる人」、そういう目で見てました。
何で言わなくなるかといえば、実力が段々とわかってくると、人はどこか自分には難しいかもと心の中でブレーキをかけてしまうんだと思います。夢を口に出せるのは間違いなく強い人で、口に出せるだけでなく本気で思い続ける人は稀有な人です。
最年長初タイトルということでかなり話題になっていて、そんなに46歳というのは成長が止まる印象なのか?と驚きながら見てました。同い年なので、おじさん、おばさんと言われてもピンと来ないんです。
だから能力の衰え云々ではなく、心にブレーキをかけずに長年思い続けた、ということならとても納得しました。
そしてなにかを叶える為にはまず思わないとダメなのかもしれないなと思いました。漠然とそうなったらいいな、ということが降って湧いてくるわけがない。思いがあることが大前提なのかもなと。
私は以前具体的な目標設定が苦手だと書いたのですが、どこかで自分のような者が実績を求めるなんて大それていて恥ずかしいという気持ちがあるのだと思います。心のブレーキをたまには取ってみましょうかねぇ。
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