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毎晩絵本を読み聞かせてくれたこと

こちらの素敵な記事を読んで、改めて母の人生を聞く時間を設けた。

当然だが、私は母に「母」としてしか出会っていない。生まれてから今まで常に母という役割のフィルターを通して母を見てきた。
母がどんな少女だったのか、どんな家庭で育ちどんな学生生活を過ごして何を思っていたのかは断片的にしか知らなかった。

予定を確認し「一緒にご飯を食べませんか」とメッセージを送った。私から母に自発的にメッセージを送るのは稀なことで、緊張がひどくて事前に姉に相談をしたしメッセージを送る時も姉と電話を繋げて無駄に実況中継のように「今送った!」「まだ既読つかない…」「あ、返信きた!」と報告をしていた。
母娘がこんな緊張関係にあるのは傍から見たら変なのかもしれないが、昨年は母からメッセージが来るだけで固まって動けなくなる状態だったので、自ら母を誘えたことに変な興奮をしていたのだと思う。

興奮冷めやらぬままお茶菓子を買いに行き緑茶の準備をして部屋を念入りに綺麗にしてみたりしたくせに、気恥しさと母が実は面倒に思っていたらどうしようという恐怖心で心の防衛のために”今昼寝から目覚めましたのでローテンションですよ”の演技をしながら玄関を開けた。
母としても私からメッセージが来るのは珍しくて何事か悩みが生じたのかと思ったらしくケーキを持って玄関口に現れた。

そうしてなんとなくぎこちなさが残ったまま始まった食事。
私の家はダイニングテーブルが無くてパソコンを置いている作業用デスクでご飯も食べるので横並びで座る。
母の伺うような視線と無言に耐えきれずバレないように深呼吸を数回重ねたのち、「私は貴方を母親としてしか知らないので、貴方の人生史を知りたいです」と率直に伝えた。

念の為、話したくないことは話さなくていいし答えたくないことは答えなくていいと伝えたが、私のぽつりぽつりと発する質問を受けて母は色んな話をしてくれた。
仕事を通して人生観が変わったこと、宗教を信じるようになったきっかけ、生家の家庭環境、叔母や祖母との関係性、学生時代の思い出、父との関係性、今後の仕事や生活について。

私が質問をするまではほとんど宗教の話がメインで思い描いていた人生史の話とは違ってどう軌道修正しようかと焦ったし、正直一部知らないままの方が良かったかも…みたいな話もあったがそれも含めて聞けてよかったなと思う。
拒絶反応のように耳を塞ぎたくなる宗教の話だって、掘り下げてみれば母のミーハーで負けず嫌いな一面が見えた。母の内省的で他者に興味が向きにくいところは私も受け継いでいるよねと話し合ったのに、最後に早口で恋愛に関するアドバイスをしてきたのはちょっと可笑しかった。正直あんな変な父と結婚した貴方が言うなよと思った。


母の人生史を聞くという一大ミッションを達成した高揚感からいつになくテンション高く素直に喋っていた。緊張から解き放たれた私はご飯とケーキを食べ終えたあと母に本棚を紹介して、本を新しく買ったことも報告した。「貴方は読書の幅が私より広いね」とコメントを残したきり母はあまり興味がなさそうな様子だったけど、私は仕事の話題以外の雑談を母とできたことが嬉しくて、母を若干置き去りにしたハイテンションで本棚に並べた本をひとつずつ紹介した。そのうちに小学生の時に母が私が読んだ本の話を遮らずに聞いてくれた時の感覚を思い出した。


「喋るのが下手くそな私の拙い本の話を聞いてくれたの嬉しかったんだよね」

「私が読書を好きになったきっかけのひとつは確実に母が絵本の読み聞かせをしてくれたからだと思うよ」

そう素直に感謝を伝えると、母は「私もあなた達に読み聞かせをしていた時間がとても大好きで幸せな時間だった」と言った。
私にとってはこの言葉は「愛してる」に匹敵する言葉で、たった一度聞けただけでもきっとこれからも幸せを見つけて生きていけそうだなと思ったりしている。


例え運命が全てを奪ったとしても、愛された子供はきっと、幸せを見つけられる。私達はそれをするために、世界に残されたのね。

輪るピングドラム 第24話より

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