不合理ゆえに吾信ず『埴谷雄高作品集2』13頁
われわれがなんであれ、いずれにせよ、とにかくそれとは別のものなのだ。
私は或る隠者の話を思い出そう。その隠者は自身を索めようとして先ず足を切った。
更に索め得られる、そう呟きながら、次に手を切った。そして、次第に自身を切り刻んでいって、
影も形もみとめられなくなったと云われる。《だが聞いてみろ。そこにはまだ呟きが聞こえるのだ。
ほれ、聞こえる。非常にさだかならぬひそやかなところところに―》まことそこに偽りなくしてなんらの論理もあり得ない。
埴谷雄高「不合理ゆえに吾信ず」『埴谷雄高作品集2』13頁