2016年9月15日(木)のひとこと「虫歯」
僕たちは、24時間365日攻め入る隙を狙っている。
自然界、いわゆる弱肉強食の世界では赤ん坊や子供が狙い目らしいが、僕らの敵は、子どものうちは徹底的なまでに親の保護下にある。僕らの動きも親の手によって防御されてしまうから、攻め入ることは難しい。それでも時々、僅かな隙をついて攻め入ることが出来ることがある。この場合も、ぬか喜びしてはいけない。どうやら子供には、陣地を総入れ替えする能力があるのだ。これを食らうと、雀の涙ほどの自陣が根こそぎ無くなり、再び真っ新の敵陣に入れ替わる。ようやく築いた自陣を守る仲間たちが、あっけなく全滅していくあの光景を初めて見たときは、絶望した。
子供と戦うことの難しさ、そして危険性を熟知している僕たちだが、奴らの隙が成長と同時に増えていくことも知っている。僕らはそれを待っている。
奴らが子どものうちは、少なくとも毎日朝晩の2回、敵陣からの攻撃がある。ところが奴らは成長すると、個体によって攻撃の頻度が低くなったり、不定期になったりすることがあるのだ。相手からの攻撃がない間は、僕らは自陣を築くことに専念することができる。加えて、大人になった奴らが、特に親密な仲間同士と直接接触したりすることで、僕らの仲間が増えることがあるのだ。こうして、攻撃力の下がった敵陣を、奴ら自身の手によって運ばれてくる仲間たちとともに、どんどん侵攻していくのだ。奴らが気付く頃には、奴らが簡単には排除出来ない程に奴らの地盤に深く食い込んだ強固な自陣を築くことが出来ている。初めて完全な自陣を築くことができたとき僕は、僕らの勢力を全土に拡大させるという僕らの夢が叶うのは、時間の問題だと思っていた。
ところが、盤石に築き上げた地盤の上で胡坐をかいていた僕たちは、絶望した。僕らのテリトリーが通常攻撃で排除出来ないと知るや否や、奴らは専門攻撃部隊による特殊攻撃を仕掛けてきたのだ。これには抗う術がなかく、僕らの城は完全なまでに削り取られた。それでも気を取り直して、「また一から攻めればいい。奴はまだ隙だらけだ」と、自分たちを鼓舞した。いざ攻撃を再開して驚いた。昨日まで僕らの城があったその場所は、奴らの手によって不毛の土地に変えられていたのだ。不毛の土地では何を仕掛けても意味がないと悟ったとき、今までに経験したことのない絶望に襲われた。この不毛の土地の上で僕たちは、これから何を楽しみに生きてゆけばいいのだろうか。
僕たちからのお願いがある。大人になっても、どうか攻撃の手を緩めないで欲しい。ここが不毛の土地となり僕たちが絶望したあの日、攻撃を仕掛けた側であるはずの君も、不毛の土地に絶望している様に見えた。確かに僕たちも、君にそこまでの攻撃をさせた責任があるかもしれない。でも、僕たちにそうさせる機会やリソースを与えてきたのは君たちではないか。共に不毛の土地をに嘆くぐらいなら、どうしてもっと早く僕たちを止めてくれなかったのか。
僕たちの暴走を止めることは君にしか出来ない。大人になっても、僕たちことを蔑ろにしないで欲しい。「どうだ、今日も元気にしてるかコノヤロー」って、攻撃がてらマメに挨拶に来て欲しい。僕らは何も、君のことが嫌いな訳ではないんだよ。