シジュウカラ

庭に小鳥のお風呂をつくってみた ~シジュウカラが常連になった編~

我が家には、猫の額ほどの庭がある。小鳥が来てくれたら毎日楽しいだろうと思い、水場をつくってみた。最初は誰も気付いてくれず開店休業の状態が続いたが、3ヶ月ほど経ったある日、帰宅すると、水場の周りの石がベチャベチャに濡れていた。

やっと来てくれた!一番風呂に入った鳥は誰?その日から、気配を感じるたびに庭を見ることにした。

やがて、シジュウカラが贔屓にしてくれていることがわかった。胸に垂らしたネクタイは黒く太く、立派なものだ。雄だろう。彼をシジュ夫と呼ぶことにする。

シジュ夫の入浴作法にはクセがある。
まず、隣との境に植えられたハナミズキの枝に止まって「チチチ……」とさえずってからひと浴槽に飛び込む。そして、頭を高速回転させながら羽をバタつかせ水しぶきをあげる。どうりで周りの石がベチャベチャになるはずだ。

5秒ほど浴びると、浴槽付近のエゴノキの枝に止まり羽づくろいを始める。天気のいい日は、すぐに乾くから気持ちいいようだ。光に透ける風切羽も美しい。身だしなみに気を遣っていることがうかがえる。

念入りに羽づくろいをするので、“入浴終了”かと思いきや、再び浴槽に飛び込んで周りをベチャベチャにしたかと思うと、5秒ほどでエゴノキの枝に移る。長風呂は体を冷やすので、水に浸かるのは5秒まで、と決めているのだろう。

こうして水を浴びる、羽をつくろう、という作業を何度も繰り返すと、さすがに満足するらしい。ハタ、と何かを思い出したように、どこかへ飛んで行ってしまう。何の挨拶もない。あっさりしたものだ。

シジュ夫は、毎日のように独りでやって来た。独身貴族のお独り様だ。彼の暮らしは悠々自適のように見えた。
そんな秋のある日、シジュ夫が恋人を連れて訪れた。

シジュ夫はいつものようにハナミズキに止まって、「チチチ……」と鳴いた。「ここがおいらの縄張だよ!お風呂もあるよ!」と得意げだ。そして、風呂に飛び込み、「こうやって、浴びるんだよ!」と水しぶきをあげて、いつものように周りの石をベチャベチャにした。

恋人のシジュ子は、彼の入浴シーンをハナミズキの枝の間から恐る恐る見ていたが、あまりにも気持ちよさそうなのでたまらなくなったのだろう、シジュ夫が出ると、彼女も浴槽に飛び込んだ。

「キャー、冷たい!」

そんな若者の声が聞こえてきそうだ。

風呂は2人で一緒に入れる大きさだが、シジュ夫が風呂からあがると、シジュ子が入る、シジュ子があがるとシジュ夫が入る……と仲良くシェアしていた。
そして、シジュ夫がハタ、と何かを思い出したように飛び去ると、シジュ子も「待ってー」と慌てて飛び去った。きっと、エサを隠した場所でも思い出したのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?