短編小説 | 涙鉛筆
地下街を歩くと、「涙鉛筆」はすぐに見つかった。小さな占い師の店だ。訪れた者はみな、明るい表情になるという。
私は占いをあまり信じないが、新たな気づきがあるかもしれない。半信半疑のまま、暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ。そこの椅子にお掛け下さい」
占い師は40半ばくらいの美人だった。
「この店では、将来のことを占ってはおりません。この涙鉛筆を持って、心に浮かんだことを書いて頂くだけです」
何の変哲もないHBの鉛筆と紙切れを手渡された。
「では、どうぞ」
どうぞと言われても、と思ったが、その涙鉛筆をもった途端に、今まで心の中に封印してきた悲しい思い出の数々がわっと思い出された。
告白できず、片思いのまま別れた女の子のこと。濡れ衣を着せられた会社の不祥事のこと。死別した母親の思い出。あっという間に紙いっぱいに書き綴っていた。
「大変でしたね」と占い師は静かに言った。私はその言葉だけで、晴れやかな気持ちになっていた。
(409文字)
毎週ショートショートnoteに初めて参加したときの投稿記事。
年末になり、いろいろと過去を振り返っています。
ちょっと恐ろしいことに気がついたのですが、今書いている私の記事より、昔の記事の文章のほうがうまかったんじゃないかと。。。
最近、文章が乱れているので、しばらくの間、自分で書くのはやめて、名作を読んで、もう一度、構成法や語調を整えてみようかな、と思うこの頃です。
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします