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短編 | 運命の赤い糸⑧

前話はこちら(↓)


 信吾くんと亜伽里さんがかつて付き合っていた?
 信吾くんと亜伽里さんが姉弟って!

 私は気持ちの整理がつかないまま、『コネクター』の中に入った。

「あら、信吾。もう優奈さんを連れてきたの?」
 この前会ったばかりなのに、亜伽里さんは別人のように思えた。

「姉さん、オレ、優奈と付き合うことになった」

「ちょっと待った!」と私は心の中で叫んだ。

 亜伽里さんは「あら、そうなのね」と事も無げに答えた。

 しばらく沈黙が続いた。私の頭の中には、いくつものクウェスチョン・マークが駆け巡っていた。

「あの、信吾くんと亜伽里さんは付き合っていたというのは?」

「本当よ。もちろん、最初は知らなかったのよ。信吾が弟だなんて。私たちが小さいときに両親が離婚して、別々の人生を歩んでいたから」

 そうだったのか。そんなことは、信吾くんから一度も聞いたことがなかった。

「オレたちはね。付き合い始めたとき、姉弟だなんて夢にも思わなかったよ」

 ようやく信吾くんが口を開いた。

「でもね。誤解してほしくないから最初に言っておくけど、一度キスしただけだから」

 キス?姉弟で?ホントにそれだけ?亜伽里さんは私の心を読み取ったらしい。「優奈さん、ホントよ。信吾と一度キスしただけよ」

「私、信じられません。お付き合いしてキスだけしかしていないなんて」

 亜伽里さんがふふふと笑った。

「ウソみたいな本当の話なのよ。キスしたあと、信吾の裸を見たとき、思い出したのよ。弟が負った火傷のことを」

 「そういえば」と私は思い出した。夏にプールで信吾くんの背中の火傷を見たことがある。かなり大きな火傷だった。

「信吾の背中の火傷を見たとき、その事を信吾に話したら、間違いなく私の弟だと確信したの。だから、本当にキスだけで済んだのよ。運命って恐ろしいものね」

 妙な雰囲気が辺りを包んだ。私が信吾くんを好きな気持ちは変わらなかったが、私の心臓はまだバクバクしていた。亜伽里さんと信吾くんの複雑に絡み合った運命の糸に、私の運命の糸も絡み合うような気がした。


 

…つづく


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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします

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