「はたらく細胞」的言語学(黙字兄弟のひとりごと)
Rudimentary organs may be compared
with the letters in a word , still retained in
the spelling , but become useless in the
pronunciation , but which serve as a clue
in seeking for its derivation.
( Charles Darwin, "The Origins of Species",
Penguin Classics , p432)
「痕跡器官は、単語の綴りのなかにのこ
っているが発音のためには必要がなく、
しかし語原をたずねる鍵として役にた
つ、その単語の文字と比較することがで
きる。」(ダーウィン著、八杉龍一訳、
「種の起原」下巻p220、岩波文庫)
ドイツ語を学習しているとき、ふと、思った。
ドイツ語の「zweifeln」は「疑う」の意味の動詞。
ドイツ語の「zwei」は「2(の)」の意味の数詞。
💡英語では、 それぞれ 「doubt」と
「double」。「ダウト」と「ダブル」。
同起源のことばだったんだ!!。
もしも「黙字」の「b」がなかったとした
ら、ダーウィンが言うように、2つの単
語の起源が同じだと気づかないかもしれ
ない。
みずから発言することはないが生きつづ
けて、みんなに大切な歴史を伝えてい
る「黙示兄弟」。「お前たちがいるから
英単語のつづりを覚えるのが面倒くさく
なるんだよ。」
と言われてしまう黙字兄弟。
どんなに重要な役割を担っても、いつも
寡黙な黙字兄弟たちの「声無き声」を、
代弁してあげたくなった。
◉黙字Kくん。
knowやknifeのなかに住んでいる。
Kくんはけっこう有名だから、名前を呼ば
れることはほとんどない。
英語に馴染んでいない中学生には「ク」
と呼ばれてしまうかもしれないが。
Kくんがいなくなったら、たいへんだ。
knowもnowも区別できなくなってしま
う。「知る」と「いま」が同じじゃ大変
だ。
◉黙字Lくん。
listenやoftenのなかに住んでいる。
listenの中でまちがって呼ばれることはほ
とんどない。
oftenのなかでは、呼ばれても、呼ばれな
くてもどちらでもいいらしい。
◉黙字Cくん。
indictmentやvictualのなかに住んでいる。
中学生、高校生には馴染みがないかもし
れない。
indictmentは[インダイメント]と発音す
る。
「起訴」(手続き)、「告発」を意味す
る。
victualは[ヴィトル]と発音する。古い単語
で、~sの形で「飲食物」を意味する。
Cくんは、どちらかというと、専門用語の
なかに住んでいるから、書物のなかに隠
れていることが多い。だから、頻繁にま
ちがって呼ばれている。そのうち、間違
いが本当になるかもしれない。
◉黙字Bくん。
climb、dumb、bomb、そして、
bomberのなかに住んでいる。
高校生ならすべて知っている人も多いの
では?
それぞれ、[クライム]、[ダム]、[ボム]と読
む。さて、最後はなんと読む?
[ボンバー]じゃないよ。
ボンバーだと、まちがっている人のほう
が多いけど、どの辞書をみても
[ボマー]あるいは[ボーマー]が正解。
・・・・・・
まだまだたくさんの黙字兄弟たちが、辞
書のなかで、黙ったまま、ぼくたちにみ
つけられるのを待っているよ。
「ありがとう」とは言わないだろうけ
ど。
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします