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ペールギュント殺人事件①




ペールギュント殺人事件


 たまにはクラシックもいいものだな、と土居は思った。彼は音楽とは無縁の生活を送っていたが、知人からチケットをもらってコンサート会場へやってきたのだった。

「土居、悪い。葬式が入ってしまって。クラシックのコンサート。チケットを譲るから代わりに行ってみないか?」

 聞けば、グリーグのペールギュントが演奏されるという。音楽家なんてモーツァルトとベートーベンくらいしか知らないが、暇だから貰えるものなら貰って、聞きに行ってみるか。

 クラシックのコンサートなんて行ったことがなかった土居は、会場に着いたとたん、「まずい!」と思った。みんなそれなりの服装をしている。土居だけが浮いていた。1人だけユニクロを着ているのがかなり恥ずかしかった。

「まぁ、いいさ。服が音楽を聞くわけじゃあるまいし」
 土居は独り言を言いながら、チケットに書かれた座席に向かった。最前列から2つ後ろの席だった。

 しばらくして、オーケストラが入ってきた。やや遅れて指揮者が現れ、観客に一礼した。それから指揮者は、くるりと観客に背を向け、タクトをあげた。会場が緊張感に包まれた。いよいよ演奏がはじまる。

 タクトがおろされた。弦楽器の音色に会場が包まれた。
「あぁ、これは聞いたことがある。ペールギュントってこれかぁ。グリーグの曲だったのか」
 土居は急に興味を持った。

 演奏が進む中、次第に会場全体が音楽に引き込まれていく。しかし、『山の魔王の宮殿にて』の演奏が始まると、最前列がざわめき始めた。しばらくして、「誰か!早く救急車を!」という声が響き渡り、演奏は中断された。数名の救急隊員があわただしくなだれ込んできた。

 1人の女性が担架にのせられた。女性はピクリとも動かず、会場内に緊張感が漂った。アナウンスが流れ、「会場の皆様、恐れ入りますが、そのまま着席してお待ちください」と告げられた。

 数時間後、観客たちは解放された。コンサートは急遽中止となり、事件の真相解明に向けて捜査が進められることとなった。

 運ばれた女性は、大阪在住の資産家未亡人、摂津綾子さん(72歳)と判明した。昨年、夫を亡くしており、一人暮らしをしていた。警察の調べによると、綾子さんの体内からは薬物が検出されたらしい。


 
…つづく

第2話はこちら(↓)



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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします