ピカレスク

そう、長いはしごを上っていた

   月に届くね、って

   星の声が聴こえるね、って


そう、長いはしごを上っていた

足元は潔さばかりじゃなかったけれど

ひとつひとつ数えていった


空が海みたいだということも


そうだよ


じかんはいつの間にか昨日に眠るの

ゆりいか、それも大切な一瞬だった   今は

うみに帰すだけ、碧い記憶が泳ぎ出して

はじめて   僕が僕になった日を

ちゃんと覚えていられるかな   忘れないかな


そう、長いはしごを上っていたんだ

そして

ゆっくり傾いていく

   怖くないよ、って言った

   大丈夫だよ、って言った



例えば


太陽が街を思い出色に染めながら

電波塔の向こうに見えなくなるのと同じ

例えば

蛍がきれいな水の上  一葉の下で

静かにその明りを隠すのと同じ

例えば

君が夜眠りにつく前、その波際で

おやすみなさいと   ささやくのと同じ


そう、長いはしごを上っていった

あと少しで月に届くところまで

跳べば星になれるところまで


でも僕は君を掴んだんだ

ゆっくり傾いていく

   怖くないよ、って言った

   大丈夫だよ、って言った


ゆっくり傾いていく

きっとみんな同じ


   大丈夫だよ、って言った

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