【長い時間をかけて多くの人の手を渡ってきたような額縁を作りたい】WAM FRAME INFINITY インタビュー
秘密の森 -marie x WAM FRAME INFINITY 展-を、2024年10月30日(水) – 11月10日(日)の期間にピカレスクギャラリーで開催いたします。
今回は、WAM FRAME INFINITYさんにご自身のことや制作エピソード、今回展示される作品についてインタビューしました。ぜひお楽しみください。
自己紹介をお願いします。
WAM FRAME INFINITYです。額装する作品がより良く見える、魅力的な額縁を目指して制作しています。
「WAM (ワム)」というのは、本名のアルファベットを組み合わせました。WとMを重ねて作ったロゴは、古いエレベーターにも似ていると思っています。「ワム」や「ワムフレーム」だとすでに使われているところがあるため、INFINITY(インフィニティー)を付けました。
「永遠」の意味を持つインフィニティーという言葉に、元々惹かれていました。良い意味で成功したいという気持ちがありましたし、言葉の響きから優雅な柔らかさを感じたので、「WAM FRAME INFINITY」になりました。
額縁制作に至るまでの経緯を教えてください。
小学生の時は漫画を真似して描いたりしていました。絵画教室に通ったこともなく、美術部に入ったわけでもないけれど、ずっと絵に関わることをしたいと思っていました。
アニメ制作会社や広告事務所で働いたこともあります。アニメは線だけで描く動きの追求に魅力を感じず、結局そこを辞めて専門学校に入り直して、デザインを学びました。
実はデザインの世界に入る前に、私のデッサンを見た知り合いの方から 「デザインより、工芸が合っているんじゃない?」と言われたんです。でもその時は「工芸」とは全く思いもせず、デザインを学び、広告事務所に入りました。
デザインははっきりした色が求められますが、私はくすんだ色を選びがちでした。そこで3年働きましたが、デザインも違う、広告も違うと思い、専業主婦になりました。専業主婦をしながら絵を描いていましたが、見たままにしか描けず、アイディアが浮かんできませんでした。
その中である時、きっかけは覚えていないのですが、家にあった木片を使って額縁を作りました。家具を分解したり、いわゆるDIYのようなことをしていたので、小さな木片とかが家にあったのです。
どうして作ったのかは本当に思い出せないのですが、自由な気持ちで彫刻刀で削って完成させた「十字架のチーク」の額縁が、私の額縁制作の原点になりました。「何も考えないで作った」という当時の気持ちは大事にしたいです。
2018年に銀座の月光荘で初個展をした時、「十字架のチーク」をメインビジュアルの真ん中に置いて、ハガキを作りました。そしたら、「この額縁に会いたい」と来てくださった方もいて、その後も何点か制作しました。
絵はちょっと違うなという気持ちもあり、だけどそれを手放してしまうと私の人生から「創作」という言葉がなくなってしまうことがすごい寂しくて、絵を描くことにしがみついていたのかもしれません。
なんとなく絵を続けていたときの「いつか、何か」という気持ちが、今に繋がっているのだと思います。額縁はイメージがどんどん湧いてくるので、私に合っている気がします。
作品の世界観が生まれたきっかけを教えてください。
大事にしているのは、やりすぎないこと。そして、品があることです。何より、「作品を邪魔しない」ことが最大のテーマです。そういうことを考えると、やはり「品」というところにたどり着きます。
私は2014年に、友人の絵を額装することからスタートしました。額縁を作るときは、絵の邪魔をしたくありません、やりすぎると、額縁が前面に出てしまいます。一方で、せっかく依頼してくださったのだから「私らしさ」が無いのもどうかなと思います。
「品」と言いますと、無駄がないこともその一つですよね。 うるさくないくて、ガチャガチャしていない。そのような額縁を作りたいですし、私自身もそういう人間になりたいと思っています
私は好奇心が強くて行動力もあるので、これまで多様な額縁にチャレンジしてきました。失敗も多くありましたが、そうやって技術を培いながら、いろいろなものを作れるようになったのかもしれません。
「そんなにいろいろ作っていると、自分がなくなってしまいますよ」と言われたこともあるのですが、「それでも、WAMさんの額縁は全部統一してる空気がある」と言ってくださった方もいました。統一している空気というのが、先ほどの「品」とか「シンプル」になるのかもしれません。
現在使っている道具・素材・技法を選んだ理由を教えてください。
木を中心に金属、土、漆喰などを使っています。最初の頃は漆喰で額縁を作っていました。水分を取ると粘土みたいに自由に形を作れるので、立体模様を作ったりしているうちに、「これを使ったらどうだろう」とチャレンジを繰り返して、いろんな素材を手掛けるようになりました。
どの素材を使うのかは、絵に合わせて考えます。 初めて額縁を作った時も、まずは絵があって、そこから漆喰と土になりました。土壁の本を見ながら、本当の壁を塗るように、藁・葦・焼石灰などを混ぜて作っていました。
好きな素材は「ハンダ」です。例えば、彫刻したところに流し込んで立体的な模様を作ったりします。通常、ハンダは溶接とかに使うので、いろんな模様を彫って流し込むというのはあまり見ないかもしれません。
ハンダは他の素材を拒否するため、テーブルの上を丸く転がって、 足の上にぽんと落ちてしまうこともあります。この特徴を活かして、彫ったところにハンダを流し込むと、自由に動いて形を作ることができます。今後は小さなモチーフだけでなく、広範囲への流し込みもチャレンジしたいです。
いろんな素材を使うことで、 同じデザインでも表情やイメージが全く異なります。額縁はほぼエリアが決まっているので、決められたエリアがどのように彩られるかは、素材が大きな決め手になりますね。
作品ができるまでのプロセスを教えてください。
まずは額装する作品が引き立つデザインをいくつか考えます。 重要視してるのは、依頼主様の好みです。お好きなイメージ、インテリア、街並みなどを質問して、アイディアを膨らませます。そこからいくつかラフ案をお出しして、選んでいただいたものをさらに煮詰めていきます。
かつては依頼主様へのサプライズのつもりで、完成するまで額縁をお見せしていませんでした。蓋を開けた時に「わー!」って思ってもらいたくて、途中経過を連絡してなかったんです。しかしある作家様に「どうして途中経過を知らせてくれないのか」と言われたことがありました。
その作家様の言葉を聞いた時に、やはり安いものではないですし、相手が不安な気持ちで待っているんじゃないかと気が付いたので、今は「こんな感じで作っていますよ」と途中経過をご連絡するようになりました。
なので、今はサプライズではありませんが、私に依頼してくださる方は「未知を楽しむ」方が多いと思います。私の額縁制作の特徴は、「決して同じことはしていない」です。「このデザインで」と指定があるならばその通りに作りますが、常に何かしらチャレンジしていると思います。
普段、何からインスピレーションを受けていますか?
あらゆる額縁が出尽くしてる中で私ができることは、作家さんの作品をより引き立てるために、私の引き出しと好奇心からいろんなものを取り出して額縁を制作することだと思っています。
そのためにも、さまざまな額縁を見ます。もう出尽くしていると思うぐらいたくさんの額縁がありますが、素材を変えてみたり、そこから思い浮かんだイメージでデザインを描いていくうちに違う方向にたどり着いたりすることもあります。
あとは街歩きです。街を歩けば、古びた家の壁とか、お店のディスプレイとか、照明デザイン、店舗デザイン、いろんなものからヒントを得ることができます。「この壁が面白いな」「この劣化感が素敵だな」とか、やっぱりそんなところに目がいきますね。
お好きな場所・もの・作品などを教えてください。
アンティークショップ に行くのが大好きです。なんだかほっとします。高級なアンティークというよりは、日常で気軽に使えるものがいいですね。家具はもう十分なので、小さな指輪とか、バッグとか、他にも面白いものとか、宝物を探すような気持ちで見ています。
バリ島の家具なども好きです。家具として成立しているけれど、手作り感があって、精密すぎない。きっちり息を詰めて作ったのではなく、現地の方がとても楽しく、気軽に制作した家具じゃないかなという感じが伝わってきます。
自宅では、バリ島のダイニングテーブルを使っています。乾燥時の冬、テーブル面に5ミリぐらい亀裂が入るんです。家具が生きているようでとても気に入っています。このように人の手の入った「よい加減」に惹かれます。いい加減じゃなくて、「よい加減」ですね。
アンティークといえば、前に嬉しい買い物をしました。エスプレッソマシーンです。 丸くて可愛い白い陶器が黒いメーカーの上に乗っていて、その陶器のところに向けて金属の管が入っています。陶器の可愛さに惹かれて購入したら、見事に使えました。
作品づくりをしていてよかったと思うのは、どんなときですか?
納得のいく額縁ができた時は、「もうできた」と嬉しい気持ちで眺めます。依頼主様にお渡しして喜んでいただけたら、それはとても嬉しいですね。
作っている時は、どうしても困難もあります。仕上げの段階でオイルの点々ができてしまって、もう取れなかったらどうしようと震えたこともありました。風合いも依頼主様のお好みに合うか、完全に自信があるわけではないので、だからこそ喜んでくださる言葉を聞くとホッとします。
これからつくりたい作品を教えてください。
長い時間をかけて多くの人の手を渡ってきたと思わせるような額縁を作りたいです。 まだ少し作為的なものを作ってるので、修繕した時に出てくるような味わいがある額縁を作ることが、これからの目標です。
以前、崩れた額縁をアメリカの蚤の市で買ってきた作家様がいました。本当に崩れてるのですが、それに作品を入れていたんです。同じようなものを作るには、古典技法で正確に作ったものを崩していく必要があります。難しく、奥深い世界ではありますが、いつか作れるようになりたいです。
「雑誌で見て素敵だなと思ったけれど、簡単には手に入らない」そんな額縁の注文を受けて作れたら、 喜んでくださる方はたくさんいらっしゃるかなと思っています。「新しいものではない」ような額縁を作れたらなという気持ちは、常にありますね。
次回の個展を楽しみにされている皆さまにメッセージをお願いします。
今回は大きな作品ではなく、小さい作品が並びます。展示する場所も、ピカレスクギャラリーの小さな四角い部屋です。その場所ならではの世界観を作れそうで、とても楽しみです。
「marieさんはどのような額縁がお好きかな?」「marieさんのことを好きなお客様は、どのようなものがお好きかな?」と考えながら、さまざまな形・色・風合いの額縁を制作しました。marieさんの可愛らしい作品と共に、楽しんでいただけたら嬉しいです。
marieさんとのコラボ作品を直に見て感じていただきたいと思いますので、ぜひピカレスクギャリーに足を運んでいただけたら幸いです。
(インタビュー実施日 2024年6月22日)
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WAM FRAME INFINITYさん、たくさんの貴重なお話をありがとうございました。皆さまはどのエピソードが心に残りましたか?
ピカレスクスタッフは、「長い時間をかけて多くの人の手を渡ってきたと思わせるような額縁を作りたい」というお話を聞いて、「品がある」とは、優しさや温かさにも通ずるのだろうな考えていました。WAM FRAME INFINITYさんの額縁に、多くの人が大切に慈しんできたような温かさを感じる方も多いのではないでしょうか。
WAM FRAME INFINITYさんの展示作品実物を一堂に鑑賞できる貴重な機会です。皆さまのお越しを、お待ちしております。
秘密の森 -marie x WAM FRAME INFINITY 展-
〈会期〉2024年10月30日(水) – 11月10日(日)
〈詳細〉https://picaresquejpn.com/marie_wam-frame-infinity_exhibition_2024/
〈WAM FRAME INFINITY 公式SNS〉
Instagram https://www.instagram.com/wamdiary64
HP https://wamframe-infinity15.com/
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【基本営業日時】
*営業 水 - 日・祝 11:00 - 18:00
*定休 毎週月火
*会場 Picaresque Gallery
*住所 東京都渋谷区代々木4-54-7
*電話 070-5273-9561
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■開催中&過去に開催した展示一覧
https://picaresquejpn.com/category/information/
■開催&開催予定の展示一覧
https://picaresquejpn.com/exhibition-calendar/
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