警部、お願いします!(12)〜秋ピリカ、ボツ作〜
警部、お願いします!【scene12】
(本文1,200文字)
「警部、お願いします!」
「なんだ? 密室と聞いて楽しみにしていたのに、窓が空いてるじゃないか!」
「いえ、警部、ここはタワマンの30階です。ご存知かと思いますが、この窓はほんの少ししか空きません」
「だから何だ?」
「そのぉ……ここから人が出ることは不可能です。もし出られたとしても、落ちて死ぬだけです」
「だとしても、脱出ルートはあるわけだな?」
「まぁ、そういうことになるのですが……」
「じゃあ、密室じゃないな。テンション下がるなぁ」
「でも、実質は密室のような……」
「ガイシャは何者だ?」
「田中一郎、ベンチャー企業を経営、45歳の独身です」
「第一発見者は?」
「田中の専属運転手です。エントランスのインターホンに反応がなく、携帯も不通だった為、直接部屋に入り死んでいるガイシャを発見したとのこと」
「そいつは、どうやってここに入ったんだ?」
「非常時の為に、エントランスの暗証番号は聞いていたそうです。部屋の鍵も合鍵を持たされていたとのこと」
「他に合鍵を持っているのは?」
「確認したところ、秘書も持っているのですが、身内に不幸があり、一昨日から北海道に帰省しています」
「なら、運転手だけか。運転手が殺ったなら、密室もクソもないな」
「死亡推定時間は昨夜23時前後、運転手には明確なアリバイがあり、裏も取れています」
「なるほど。で、そいつが見た時は、ドアは施錠されていたんだな?」
「防犯カメラをチェックしましたが、間違いないです」
「ここ数日のガイシャに、変わったことは?」
「大したことじゃないのですが、最近、少しおかしな発言がよくあったそうです」
「どんな話だ?」
「些細なことですが、ここに置いていた物が動いているとか、勝手にエアコンが切れたとか、家に帰るとテレビがついていたとか……真偽不明の違和感を、周りの人間に話していたそうです」
「ふむ……大体のところは分かったぞ」
「えっ?」
「まず、脱出経路はやはり窓だな」
「それは……流石に無理ではないでしょうか?」
「いやいや、小人なら出れるさ」
「はいっ? 小人ですって?」
「あぁ、犯人は小人だよ。ガイシャは小人のイタズラに悩まされていた」
「小人なんて、ホントにいるんですか?」
「さあ、俺は見たことないが」
「それに、小人が大人の人間を殺すなんて、そんな力があるようには……」
「なんだ? お前は小人を見たことあるのか?」
「いえ、ないです……」
「すごい力があるかもしれないじゃないか。先入観は捨てたまえ」
「は、はい……でも、小人でも窓からの脱出は危険ではないでしょうか?」
「飛行機に乗ったんだよ」
「飛行機ですって?」
「あぁ、紙飛行機だ。紙飛行機ぐらい、小人でも折れるだろう」
「で、でも、操縦は不可能ですよね?」
「そうだな、風任せになるだろうが、部屋から出る方法はそれしかない」
「それで、小人は何処に逃げたのでしょう?」
「紙飛行機の行方なんて分からないさ。紙のみぞ知るってところだ」
(了)
「秋ピリカグランプリ」に、あやうく応募してしまいそうになったボツ作です。
ひさ〜しぶりの警部でした!
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