【いつまでもショパン】中山七里
※インスタに投稿した記事より、一部加筆修正してお届けいたします。
久しぶりに中山七里さんの本を手に取りました。この本は、『さよならドビュッシー』、『おやすみラフマニノフ』に続くシリーズものの第三弾で、2014年に出版された本です。
個人的には、ピアノに関わる仕事をしているだけに、『さよならドビュッシー』には衝撃を受けましたし、『おやすみラフマニノフ』もそれなりに楽しめたのですが、ショパンに関しては読む気が起きないままに、数年が経過していました。
先日、たまたま図書館でこの本が目に留まり、長らく中山七里さんの本を読んでいないことに気付き、無性に読みたくなって借りることにしました。
しかし、冒頭から予想外の展開でした。前二作と比べ、スケールがワールドワイドになってるし、舞台もワルシャワのショパンコンクールだし、アルカイダとかテロとか紛争の話も混じってるし……と話が多方面に広がり過ぎて、良くも悪くも違和感は拭えなかったです。
それでも、そこはさすが中山先生、リーダビリティの良さは健在で、熱中して一気読みしました。
全体的な印象としては、これはミステリー要素には全く重心を置いておらず、音楽、または芸術が持つ精神力やその発信力、影響力などの偉大さと崇高さを伝えることが、メインのテーマなのかな? と思いました。(謎解きも面白いですけど)
テロや戦争に決して屈することない表現者の精神は、とても真っ直ぐで、力強い信念に支えられています。全編通して、その思いが熱く伝わります。
もう一つの見どころは、やはりピアノの演奏描写でしょう。おそらく、全体の二割ぐらいは、演奏描写なのではないでしょうか?(数えてませんが)
マンネリにならずに、よくもこれだけの表現を書けるものだと、純粋に感動しました。この点に関しては、あの【蜜蜂と遠雷】を凌駕してるかもしれません。それぐらい、すごい熱量と圧巻の表現で、ピアノ演奏が生々しく文章で再現されるのです。
途中、少し食傷気味になりかけましたが、最後の主人公の覚醒した演奏は、涙が出そうになるぐらい胸が熱くなりました。
エチュードの運指についても、実に詳細に書かれており、指導者、然もフィンガートレーニングのスペシャリストでもここまで具体的に書けないのでは? と思うぐらい、深く踏み込んだ話が散りばめられています。
ショパン好きには、たまらない本です。
そう、私がこの本を出版時に読まなかった理由は、正にショパンが好きだからこそかもしれません。
ピアノを愛する人にとって、誰よりもショパンは特別な存在です。だからこそ、幻滅するのが怖くて、無意識に避けていたのかもしれません。
でも、読んでみた今……今すぐにでも、ショパンが聴きたいし、ショパンを弾きたい!
それが何よりの感想です。
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